昼寝ネコの雑記帳

2013年 05月 08日 ( 1 )

創作イメージ「続・絵のない絵本」〜眠りから覚めた少女

Astor Piazzolla - Asleep - Kronos Quartet


創作イメージ「続・絵のない絵本」〜眠りから覚めた少女

*最初に正編からお読みになることをお勧めします←click

一週間後の朝。
晴れ渡った空と相模湾の水平線は遠くで重なり合い、
その境目を見分けることは難しかった。

老絵本作家は、まだ眠りこけている白毛のネコに
声をかけたが、ネコは一瞬眼を開き、
迷惑そうな表情でまた眠りについた。

編集者からメールが届いていた。
いつもは事務的な数行のメールなのに、
今日のは、やけに長い。

「先生、すっかりご無沙汰しておりますが、
お変わりありませんでしょうか。
にゃんちゃんもお元気ですか?
済みません、お名前を失念しました(苦笑)。

昨年、作画の依頼をお引き受けし、
コンタクトした女の子からメールが届きました。
ずっと意識が戻らないと聞いていましたので
とても驚きました。
とりあえず、そのまま先生に転送しますので
お読みください。その上で
どのように対応すればいいのかを、ご指示ください。

c0115242_113641.jpg


(メールのコピー開始)
編集者様

去年、絵本の絵を描いてほしいと、
わざわざ病院まで来てくださり、有難うございました。
一週間ほど前、お預かりしていた資料を、母から渡されました。
もう一年も前のことですので、すでにこの絵本は
どなたかの絵で出版されていると思います。
でも、とても不思議な感じがしましたので
忘れないうちにメールを送ります。

すぐにメールを送りたかったのですが、
先生から、脳波検査やいろいろ調べて、
それと、体力がまだまだ快復していないので
しばらく休養してからにしなさいと言われました。

一年間も意識がなかったなんて、信じられません。
でも、鏡を見たらまるで別人でした。
少しだけ長い夢の中で過ごして目が覚めた、
そんな感じなんです。

夢の中で、私は独りでした。
暗い森の中を、出口を探して歩いていたんです。
昼間も太陽の光が届かず、いつも暗くて
ひんやりしていました。
ときどき、フクロウの鳴き声が聞こえましたが
姿は見えませんでした。
すぐ近くで、オオカミみたいな動物の気配がして
とても怖いんですが、泣くことも
叫ぶこともできないんです。

すぐ後ろに何かの気配を感じ、振り向きました。
身体が凍り付いて動くことができませんでした。
そこには、緑色のドラゴンが立っていたんです。
しばらく向き合ったままでしたが、
優しい眼をしていることに気付きました。
「怖がらないでいいよ、ぼくが守ってあげるね」
えっ?人間の言葉を話すんだ。
不思議な出会いでしたが、
わたしたち、すっかりお友だちになりました。
怖いオオカミが襲って来なかったのは、
きっと、このドラゴンが
ずっと守ってくれてたからなんだと、
そう思いました。

「どこから来たの?この森に、人間は来ないよ」
「わたしにも分からないの。気がついたら
この森を歩いていたの」
「じゃあ道に迷ったのかな。で、どこに行きたいの?」
「・・・。」
そういえば、わたしはどこに行きたいんだろう。
なんて答えていいのか、分かりませんでした。
「じゃあ一緒に探してあげるから
行きたいところを見つけようね」

森の道は細く、途中に分かれ道がありました。
振り向くと、ドラゴンは言いました。
「どっちに行けばいいかは、自分の心に聞いて、
感じるままに進んだらいいんだよ」
分かれ道で立ち止まると、ドラゴンは
いつも同じように言いました。

ある所で、大きな不思議な木が目に留まりました。
木の枝には、たくさんの実がなっているんです。
大きさがまちまちで、色合いもさまざまでした。
近くで確かめたいと思い、近づいていきました。
よく見ると、それは果物の実ではなく、絵本だったんです。
ドラゴンが教えてくれました。
この木は「絵本の木」と呼ばれて、森の中には
この一本しか生えていないんだそうです。
木が、いろいろな物語を考えて、作り終わると
枝に絵本が生えて来るんですって。
なんて不思議な木なんだろう。
わたしはすっかり、この森が好きになりました。

ドラゴンは言いました。
「木の幹に近づいて、両手を当ててごらん」
言われたとおりにしました。
すると、木の枝から一冊の絵本が地面に落ちました。
「この木はね、一番必要だと思う絵本を選んで
こうしてプレゼントしてくれるんだよ。
さあ、その絵本はもうきみのものなんだよ」
わたしは木に向かって、ぺこんとお辞儀すると
近くの切り株に座って、絵本を開きました。
小さい頃から読んでいた絵本とは違いました。
普通の紙ではなく、不思議な手触りでした。

物語は、今まで読んだことのない
不思議な内容でした。
一気に読み終えることができました。
ドラゴンに感想を伝えようとしたのですが
姿が見当たりませんでした。
急に心細くなったのですが、そのとき
ネコの鳴き声がしました。いつの間にか
目の前に、全身が白い毛のネコが座っていたんです。

ネコは、森の奥に向かって歩き始めました。
立ち止まって振り返り、わたしを呼んでいます。
見回してもドラゴンの姿は見えません。
なので、ネコのあとをついていくことにしました。

しばらく歩くと、暗い森なのに
とても明るい場所が見えました。
近づくと、大きな木が光っているんです。
枝が輝いていて眩しいんです。
ネコは、木の根元でわたしを待っています。
とても眩しいので、下を向きながら
そっと木の幹に近づきました。
すると突然、とっても眠くなりました。
ああ、そういえばわたしは疲れていたんだなと、
そのまま、暖かい木にもたれかかり、
深い眠りに落ちていきました。

どれぐらい寝ていたのか分かりませんが、
目が覚めても、すっきりしませんでした。
自分がどこにいるのか、理解できないんです。
でも、そこは病院のベッドでした。
どうして病院にいるのか、不思議でした。

わたしは、ずっと意識がなかったんですね。
説明されてとても驚きました。
じゃあ、ドラゴンも不思議な木も
白いネコも、みんな夢の中のことだったんだと
そう思いました。

何日かして、すっかり落ち着いたのを確認して、
母から封筒を手渡されました。
中には編集者の方からの手紙と、
絵が印刷されていない絵本が入っていました。

絵本の文章を読み始めて、
頭の中が混乱してしまいました。
だって、夢の中で大きな絵本の木からもらった
あの絵本の内容と、そっくり同じだったんです。

なので、わたしの経験した不思議なできごとを
編集者の方にも、お知らせしたいと思ったんです。
本屋さんで絵本を買ってきてもらいますので
なんていうタイトルなのか、教えてください。
是非、読んでみたいんです。
(メールのコピー終了)

先生、実に不可思議なお話しですね。
こんなことが現実に起きるんですね。
ここまでお待ちになったのですから、
個人的には、この少女画家の快復を待って
絵の依頼をした方がいいと思っています。
ご指示をお待ちしておりますので、
ご検討を宜しくお願いいたします。

  *  *  *  *  *

編集者からのメールは、ここで終わっていた。

老絵本作家は、ネコの視線を感じた。
「お前がこの子を連れ戻してくれたのか?」
白毛のネコは、得意そうな表情で返事をすると、
また眠そうな顔であくびし、眠りについた。

彼は、心深くに静かな感銘を覚え、
それが両眼から溢れているのを感じた。

水平線は、空の色より幾分濃くなっていた。
老絵本作家は立ち上がると、窓を開けた。
柚の香りが、部屋中に拡がるのを感じた。
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by hirune-neko | 2013-05-08 11:36 | 心の中のできごと | Comments(0)



妄想から始まり、脳内人格を与えられた不思議な存在
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昼寝ネコのプロフィール
・1951年
 小さいころ、雨ざらしで目ヤニだらけの捨てネコを拾ってきては、親から小言をいわれる。小学校低学年の音楽と図工は通信簿が「2」。中学からバスケを始めるも、高校2年で部活を止め、ジャズ喫茶通いが日課となる。授業が退屈でがまんできず、短編小説を書いては授業中のクラスで強制的に回覧させ、同級生の晩学を妨げることしばしば。早く卒業してほしいと、とくに物理の先生が嘆いていたようだ。ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーンに心酔。受験勉強をすっかり怠り、頭の中は浸水状態。

・1969年 
 中央大学経済学部入学
 まぐれで合格するも、東大安田闘争・70年安保闘争などの影響で神田界隈はマヒ状態。連日機動隊がやってきて大学はロックアウト・封鎖の繰り返し。すっかり希望を失い、大いなる時間の浪費が始まる。記憶に残っているのは、ジャズを聴いたこと、大学ノートに何やら書きなぐったこと、ぼーっと考えごとをすること。数限りなく、雑多なアルバイトをやったこと。一応は無難にこなした・・・はずだ。いろいろ本を買いあさったが「積ん読状態」で、ただ、アルベール・カミュの作品には衝撃を受ける。それと、寮生活だったので、嫌いだった納豆を食べられるようになったのは、収穫だった。

・1974年 
 同大学卒業
 1年留年し、5年かけてなんとか卒業。理由は単位を落としたからだが、結局5年間の学生生活で授業に出席したのは、おそらく数十日ではなかったろうか。毎回レポート試験で単位をいただいたが、ほとんどは寮生仲間に「餃子ライス」を報酬に、作成を代行してもらった。今さら卒業証書を返還せよといわれても、もう時効だろう。白門同窓生の恥部であることは、重々自覚している。
     
・2006年 
 現在に至る
 プロポーズしたら1週間待ってくれという。そんなに待てないといったら、翌日ハート型のケーキを焼いて待っていてくれた。世の中には奇特な女性がいるものだ。おまけに4人も子どもを産み育ててくれて・・・育児放棄の夫に寛大な女性で・・・おまけに子どもたちは・・・三人の息子と息子のような娘が一人なのだが・・・父親を反面教師として、なんとか実社会に順応している。大したものだ。わが家には、「親の七光り」など存在せず、「子の七光り」で恩恵をいただいているようなものだ。

・2010年 宇宙の旅
 人生も、それなりに辛抱して生きていれば、悪いことばかりではないなと思っている。2010年には、どこで何をしていることやら。宇宙のチリになっているのか、地中に埋もれているのか、はたまた相変わらず時間を見つけては昼寝三昧なのか、こればかりは全く予測がつかない。

・現在
 このブログを始めた頃、2010年なんてずっと未来の存在だった。でも、気がついてみたら2010年はすでに過去のできごとになってしまった。2013年になり、もうじき2014年になろうとしているこの時期に、改めてブログに書き残された何編もの雑文が、自分の心の軌跡という遺産になっていることを感じている。6年前に「昼寝ネコの雑記帳」という単行本を出版した。最近は「続・昼寝ネコの雑記帳~創作短編集」を発刊しようと、密かに機会を窺っている。
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