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昼寝ネコの雑記帳

2013年 05月 06日 ( 1 )

創作イメージ「絵のない絵本」

Maria de Buenos Aires, Poema Valseado(Piazzolla)


遠く水平線を見下ろす古びた家に
年老いた絵本作家が、
全身白い毛の老ネコと一緒に住んでいた。

たくさんの読者が、
彼の書く絵本を楽しみにしているので
出版するとすぐに、本屋の棚は品切れになる。
なので、編集者はいつも原稿依頼をしたのだが
今はもう、どこの出版社からも
連絡が途絶えてしまった。

彼は気が向かないと一行も書かなかった。
鮮明なイメージが思い浮かばないと、
決して書こうとはしなかった。
それと、どんなに有名で売れっ子の画家でも
絵心が気に入らないと、契約書に署名しなかった。
どれだけ高額の原稿料を申し出られても、
彼はお金のために、原稿を書くことはなかった。

なので、いつしか編集者の足も遠のき
「生きた化石」が、彼の代名詞になってしまった。

彼は、書くことを止めたわけではなかった。
得心のいく物語が、すでにできあがっており、
あとは、絵を描いてもらうだけだった。

あるとき偶然目にした絵が、彼の目を捉えた。
感性がはじけ溢れ、汚れのない心の中から
生み出されるその絵は、まるで自分がイメージし
文章にした世界そのものを、絵で表現していると感じた。
名もない若い女性のようだが、彼には十分だった。
老絵本作家はこの出会いに感謝した。

かつての編集者に原稿を渡し、絵のページと表紙を
白紙のまま、絵本の形に印刷し製本するよう依頼した。
編集者は久しぶりに新刊絵本が誕生することを喜び、
快く依頼を引き受けてくれた。
何度も物語を読み返し、あの若い女性画家に
絵を依頼する手配も、編集者に託した。

数日後、編集者から思いがけない報告を受けた。
画家は入院中だというのだ。
聞くと、ある日突然、意識を失って昏睡状態になり、
最悪の事態は避けられたものの、今でも意識が戻らず
絵を描ける状態ではないという。
編集者は、別の画家の推薦リストを送ってきたが
老絵本作家は見向きもしなかった。

医学的には難しくても奇跡が起こって、
ある日突然意識が回復するかもしれない。
そんな淡い期待感を消し去ることができず、
去年は、クリスマスまで待ってみようと考えた。
しかし奇跡などは起こらず、新年を迎えてしまった。

やはり無理なのだろう。
失意の中で決心がつかないまま、とうとう
去年の春から、ちょうど一年が経った。

老作家は、本棚に手を伸ばし、
絵の部分だけが白紙の「絵のない絵本」を
手に取ってページをめくった。
言葉も交わしたことのない、病床の画家のことを
想像してみた。
根拠は何もないのだが、彼女がある日
何かのきっかけで突然意識を取り戻し、
会話ができるようになるのではないか、
そんな予感を完全に消し去ることができなかった。

今年のクリスまで、もう一度待ってみよう。
そう考えると、気持ちの整理がついた。

彼は窓越しに見慣れた水平線を眺めた。
立ち上がり、窓を開けたそのとき、
庭先に植えられた柚の木から
ほのかな香りが、部屋中に拡がるのを感じた。

*続編にお進みください←click
by hirune-neko | 2013-05-06 02:53 | 音楽・映画・本の世界 | Comments(0)



妄想から始まり、脳内人格を与えられた不思議な存在
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昼寝ネコのプロフィール
・1951年
 小さいころ、雨ざらしで目ヤニだらけの捨てネコを拾ってきては、親から小言をいわれる。小学校低学年の音楽と図工は通信簿が「2」。中学からバスケを始めるも、高校2年で部活を止め、ジャズ喫茶通いが日課となる。授業が退屈でがまんできず、短編小説を書いては授業中のクラスで強制的に回覧させ、同級生の晩学を妨げることしばしば。早く卒業してほしいと、とくに物理の先生が嘆いていたようだ。ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーンに心酔。受験勉強をすっかり怠り、頭の中は浸水状態。

・1969年 
 中央大学経済学部入学
 まぐれで合格するも、東大安田闘争・70年安保闘争などの影響で神田界隈はマヒ状態。連日機動隊がやってきて大学はロックアウト・封鎖の繰り返し。すっかり希望を失い、大いなる時間の浪費が始まる。記憶に残っているのは、ジャズを聴いたこと、大学ノートに何やら書きなぐったこと、ぼーっと考えごとをすること。数限りなく、雑多なアルバイトをやったこと。一応は無難にこなした・・・はずだ。いろいろ本を買いあさったが「積ん読状態」で、ただ、アルベール・カミュの作品には衝撃を受ける。それと、寮生活だったので、嫌いだった納豆を食べられるようになったのは、収穫だった。

・1974年 
 同大学卒業
 1年留年し、5年かけてなんとか卒業。理由は単位を落としたからだが、結局5年間の学生生活で授業に出席したのは、おそらく数十日ではなかったろうか。毎回レポート試験で単位をいただいたが、ほとんどは寮生仲間に「餃子ライス」を報酬に、作成を代行してもらった。今さら卒業証書を返還せよといわれても、もう時効だろう。白門同窓生の恥部であることは、重々自覚している。
     
・2006年 
 現在に至る
 プロポーズしたら1週間待ってくれという。そんなに待てないといったら、翌日ハート型のケーキを焼いて待っていてくれた。世の中には奇特な女性がいるものだ。おまけに4人も子どもを産み育ててくれて・・・育児放棄の夫に寛大な女性で・・・おまけに子どもたちは・・・三人の息子と息子のような娘が一人なのだが・・・父親を反面教師として、なんとか実社会に順応している。大したものだ。わが家には、「親の七光り」など存在せず、「子の七光り」で恩恵をいただいているようなものだ。

・2010年 宇宙の旅
 人生も、それなりに辛抱して生きていれば、悪いことばかりではないなと思っている。2010年には、どこで何をしていることやら。宇宙のチリになっているのか、地中に埋もれているのか、はたまた相変わらず時間を見つけては昼寝三昧なのか、こればかりは全く予測がつかない。

・現在
 このブログを始めた頃、2010年なんてずっと未来の存在だった。でも、気がついてみたら2010年はすでに過去のできごとになってしまった。2013年になり、もうじき2014年になろうとしているこの時期に、改めてブログに書き残された何編もの雑文が、自分の心の軌跡という遺産になっていることを感じている。6年前に「昼寝ネコの雑記帳」という単行本を出版した。最近は「続・昼寝ネコの雑記帳~創作短編集」を発刊しようと、密かに機会を窺っている。
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