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昼寝ネコの雑記帳

かすりもせず落選の公募作品公開3

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(カトリ〜ヌ・笠井さんの、この画から着想を得ました)

雪女の甘いささやき【その3】 昼寝ネコ・作

 さて、その後の記憶がさっぱり辿れない。湯船に浸かって眠ってしまったらしく、ガクンと首が斜めに曲がった衝撃で目が覚めてしまった。一瞬、自分がどこにいるのか判断がつかず、石狩街道からどのように帰宅したのかさえ覚えていない。やはり、おかしな夢を見てしまったのだろう。それにしてもリアルな夢だった。不思議な出来事だった。だが、時折、実にはっきりとした夢を見る私にとっては、そんなに珍しいことではない。

 風呂から上がり、いつものようにメールチェックを始めた。相変わらず迷惑メールが多い。
「ん?差出人・シェルブールのカトリーヌ・ド・ヌーヴ。案件・分析結果?なんだこりゃ?」
 一応開いてみることにした。

(昼寝ネコさん、先ほどはご協力を有難うございました。センターで詳細の分析をさせていただきましたので、結果をご報告させていただきます。
 昼寝ネコさんのDNAおよびm-DNAは理想的でした。地球人には珍しく人間離れしており、どちらかというとネコに近いものでした。できれば、すぐにでも血液のご提供をお願いしたいのですが、ひとつ問題が発生しました。
 昼寝ネコさんの血液には「嗜好性DNA症候群」という、一過性の病気があることが確認されたのです。つまり、昼寝ネコさんの血液から作られた血清の投与を受けた人は、昼寝ネコさんの大好物の、こしあんドーナツが異常に食べたくなるのです。これがクリームドーナツだったら良かったのです。キラキラ星では「あずき」が育たたず、こしあんの類が作れないのです。あずき製品ではないのですが、以前、別の嗜好食品が欠乏し、その原材料を栽培できる他の惑星を支配しようとして、宇宙戦争になりかけたことがあるんです。
 そこで国家歴史シミュレーション委員会の決定に従い、今回は昼寝ネコさんに血液の提供を求めないことにしました。ですが、昼寝ネコさんの血液は、大変貴重ですから、別のオプションを提案したいと思います。
 今後は一切、こしあんドーナツを食べないでください。専門医によれば、六ヶ月間こしあんドーナツを口にしなければ、血液中の「嗜好性DNA症候群」は、跡形もなく消えるそうです。
 六ヶ月経ったら、昼寝ネコさんをお迎えに上がります。わたしたちの生死にかかわることですから、十分な量の血清ができるまで、キラキラ星に滞在していただきたいのです。

 決して「こしあんドーナツ」を口にせず、がまんしてお待ちください。なお、隠れて食べようとしたら・・・左手の薬指をご覧ください。決して外せない指輪をはめておきました。こしあんドーナツを口に運ぼうとしたら電流が流れます。口に近づけるほど強力になり、口に入れる前に失神するよう自動設定がなされています。どうぞ忍耐してお過ごしくださいね。
 次にお会いできる時を心から楽しみにしています。それと、このことはキラキラ星のトップシークレットですので、決して口外されませんように。とくに昼寝ネコさんのブログで公開しないでくださいね。このことは、昼寝ネコさんとわたしの間のヒ・ミ・ツですよ。)

 最後まで読み終える前に、私は当然のことながら、左手薬指にはめたという指輪の存在を確かめていた。あれは夢ではなかったのだ。見慣れない色彩の武骨な金属製の指輪が、確かにそこにある。
 私はどんでもない連中に目をつけられてしまったのだ。雪女・・・ああそうだ、これが雪女の正体なのだ。気づくのが遅すぎた。生涯の大失敗だった。あのとき、カトリーヌ・ド・ヌーヴの名前を口にしたのが、そもそもの間違いだった。
 シェルブールの雨傘のラストシーン。雪の降るガソリンスタンドでの、さりげなくもの悲しい別れのシーンが思い出された。
 

   *   *   *


 五ヶ月が過ぎた。

 エイリアンからのメールは、不定期だが何度も送られてきた。最大の関心事はやはり、私がこしあんドーナツをちゃんとがまんしているかどうかだった。少し神経質になっているせいか、常に無人衛星に監視されているような気がしてならない。

 事情を知らない杉浦さんや野幌の叔母は、時々焼きたての「こしあんパン」や、「こしあんドーナツ」を差し入れてくれる。しかし、一向に手を出さない私を見て、どこか具合が悪いのかと、いらぬ心配をかけてしまっている。

 覚悟はしているものの、もうこの地球に戻ってこられないかもしれないと思うと、さすがに弱気になり始めている。
 すると不思議なもので、過ぎ去った遠い思い出が、次々と甦ってくる。

 幌別小学校では、素振りをしたつもりが、誤って友だちの頭をバットでガツンとやってしまったけど、後遺症なく元気にしてるかなあ。初めて見た地球岬は、晴れ渡った海の青さが眩しく、本当に息をのむ美しさだった。栄高時代、バスケの練習でイタンキ浜を往復したけど、きつかったなあ。だが何よりも、新千歳空港に飛行機が着き、外に一歩出たときのほっとする気持ちは、もう味わうことができないかもしれないなあ。
 日常生活で慣れ親しんだ当たり前のことが、妙に有難く、懐かしく思える。真夜中に鳴き叫ぶ、不気味なカラスにさえ親近感を覚える。
 我が家の飼いネコ・シロを、もしかしたら看取ってやれないかもしれない。もともと体毛が白いので白髪は目立たない。それと、もともと背中が曲がっているので、腰が曲がっているのも目立たない。人間でいえば手稲の母よりずっと年上で、九十歳近くであることは間違いない。シロよ、もしお前を看取れなかったら、申し訳ないけど、ひと足先に行って待ってるんだよ。
 そんなことより、何の連絡もせずにネット将棋スクールに出入りしなくなったら、堀川師匠もフォアグラ肝臓さんも心配するだろうなあ。でももしかして、科学が発達しているキラキラ星には、宇宙アウターネットなるものが存在し、地球のインターネットに接続できるかもしれない。
 そうだ、そのときはド・ヌーヴに頼んで、フォアグラ肝臓さんと将棋の対戦をしてもらおう。初対面のド・ヌーヴがいきなり、「何枚落ちにしましょうか」、と申し出たら、フォアグラ肝臓さんは、プライドを傷つけられてムッとするだろうな。でもできれば、そのムッとした顔を見てみたい気もする。

 今年の札幌は雪が少なく、春の訪れも異常に早かった。ときどき夜空の星を見上げては、キラキラ星がどの方向なのか見渡してみるが、見当もつかない。

               (完)


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by hirune-neko | 2008-06-28 17:17 | 創作への道 | Comments(6)
Commented by romarin at 2008-06-29 06:14 x
とても興味深い小説でした。これで終わりなのですか?
こしあんドーナツを我慢する所には笑ってしまいました。
ちょっぴり警告めいた、それでいて微笑みを誘ういい小説でしたのに
落選でしたか・・・

私は人気Blogランキングにクリックさせていただきました。
Commented by 鬼マネージャー at 2008-06-29 13:54 x
今回の作品は、未来を見据えた内容という意味ではかなり斬新で
あると思えますね。

評価はともかく私は好きな作品ですよ!
Commented by バオバブ at 2008-06-29 17:26 x
映画にしたいなぁ~と思う内容ですよ。
わたくしの大好きなテイムバートン監督にお頼みしたい。
彼ならぴったしの映像をつくってくれそうですよ。


Commented by hirune-neko at 2008-06-30 00:41
>romarinさん

有難うございます。
ちゃんと読んでくださって
嬉しいです。
Commented by hirune-neko at 2008-06-30 00:43
>鬼マネージャーさん

おほめいただいて、有難うございます。
そうなんですよ、未来を見据えたつもりなんですよ。
しばらく充電します。
Commented by hirune-neko at 2008-06-30 00:44
>バオバブさん

激励を有難うございます。
読んでて、イメージ湧きますよね?
当分は仕事で奔走します。
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昼寝ネコのプロフィール
・1951年
 小さいころ、雨ざらしで目ヤニだらけの捨てネコを拾ってきては、親から小言をいわれる。小学校低学年の音楽と図工は通信簿が「2」。中学からバスケを始めるも、高校2年で部活を止め、ジャズ喫茶通いが日課となる。授業が退屈でがまんできず、短編小説を書いては授業中のクラスで強制的に回覧させ、同級生の晩学を妨げることしばしば。早く卒業してほしいと、とくに物理の先生が嘆いていたようだ。ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーンに心酔。受験勉強をすっかり怠り、頭の中は浸水状態。

・1969年 
 中央大学経済学部入学
 まぐれで合格するも、東大安田闘争・70年安保闘争などの影響で神田界隈はマヒ状態。連日機動隊がやってきて大学はロックアウト・封鎖の繰り返し。すっかり希望を失い、大いなる時間の浪費が始まる。記憶に残っているのは、ジャズを聴いたこと、大学ノートに何やら書きなぐったこと、ぼーっと考えごとをすること。数限りなく、雑多なアルバイトをやったこと。一応は無難にこなした・・・はずだ。いろいろ本を買いあさったが「積ん読状態」で、ただ、アルベール・カミュの作品には衝撃を受ける。それと、寮生活だったので、嫌いだった納豆を食べられるようになったのは、収穫だった。

・1974年 
 同大学卒業
 1年留年し、5年かけてなんとか卒業。理由は単位を落としたからだが、結局5年間の学生生活で授業に出席したのは、おそらく数十日ではなかったろうか。毎回レポート試験で単位をいただいたが、ほとんどは寮生仲間に「餃子ライス」を報酬に、作成を代行してもらった。今さら卒業証書を返還せよといわれても、もう時効だろう。白門同窓生の恥部であることは、重々自覚している。
     
・2006年 
 現在に至る
 プロポーズしたら1週間待ってくれという。そんなに待てないといったら、翌日ハート型のケーキを焼いて待っていてくれた。世の中には奇特な女性がいるものだ。おまけに4人も子どもを産み育ててくれて・・・育児放棄の夫に寛大な女性で・・・おまけに子どもたちは・・・三人の息子と息子のような娘が一人なのだが・・・父親を反面教師として、なんとか実社会に順応している。大したものだ。わが家には、「親の七光り」など存在せず、「子の七光り」で恩恵をいただいているようなものだ。

・2010年 宇宙の旅
 人生も、それなりに辛抱して生きていれば、悪いことばかりではないなと思っている。2010年には、どこで何をしていることやら。宇宙のチリになっているのか、地中に埋もれているのか、はたまた相変わらず時間を見つけては昼寝三昧なのか、こればかりは全く予測がつかない。

・現在
 このブログを始めた頃、2010年なんてずっと未来の存在だった。でも、気がついてみたら2010年はすでに過去のできごとになってしまった。2013年になり、もうじき2014年になろうとしているこの時期に、改めてブログに書き残された何編もの雑文が、自分の心の軌跡という遺産になっていることを感じている。6年前に「昼寝ネコの雑記帳」という単行本を出版した。最近は「続・昼寝ネコの雑記帳~創作短編集」を発刊しようと、密かに機会を窺っている。
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