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昼寝ネコの雑記帳

ボクのご主人様はプロフェッサー

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    (あっ、カトリ〜ヌ・笠井さん作の画です)
どうやらボクは小さいときに、ご主人様に拾われたらしいんだ。独りぼっちで寒さに震え、冷たい雨を避けていた秋。ボクは行き所を失い、食べ物を探す元気もなくなって・・・ご主人様が拾ってくれなかったら、とっくに死んでいたんだろうなと思う。

ご主人様の部屋は、どこもかしこも本と雑誌と論文だらけ。難しい大学で難しい講義をしているせいなのか、性格まで難しくなっちゃったので人付き合いもなく、パーティーもみんな断ってたみたいなんだ。
いつも本を読むか、論文に目を通していて、テレビもない家なんだよ。音楽だって、長ったらしいオペラばっかり聴いていて、とっつきにくいったらありゃしない。
でもね、ボクにはいつも優しかったんだよ。まるで話し相手は、この世にボクしかいないような感じで、仕事以外に電話なんてかかってこないし、私的な連絡なんて、お母さんが亡くなったとき、妹さんから連絡があっただけじゃないかな。

気がつくと、そんなご主人様が本から目を離し、窓の外を眺める時間が長くなったの。もう一年も前になるかな。
どうしちゃったんだろうって、心配だったよ。理由はじきに判明したけどね。新学期から講義に出席するようになった女子学生に・・・どういう表現が適切なんだろうね・・・好意を抱いた。恋をした。関心を持つようになった・・・。
だってね、ご主人様とその女子学生は、年齢が30歳以上も離れているんだよ。
ため息をつくご主人様の姿なんて、それまで見たこともなかったなあ。人に心を開かないご主人様だったけど、ボクには平気で思ったことを表現してたんだよ。まさかボクが、人間の言葉を理解するだなんて、思ってもいなかったんだろうね。
「私のこれまでの人生は、なんだったんだろうね」
有名な大学院を優秀な成績で修了し、英国の著名な大学院にも留学した、いわばエリート学者だったのにね。妙に、自信を失ったような、弱気な言葉が出るようになったんだ。
その女子学生はもう卒業してしまったけど、ご主人様は結局何も伝えられず、また独りの世界に閉じこもってしまったの。
自分の住む世界はここにしかないってさ。慣れ親しんだ学究の世界。でも、以前と比べると、ずっと本を読む時間が短くなり、オペラを聴く時間が増えたみたい。
頭で考える時間と、心で感じる時間が少しずつ逆転したんだね。でもね、ボクにはこういうんだよ。
「私は、これまでの人生で、少し本を読みすぎたようだ。でも、お前はまるっきり本を読まないね。私に飼われているんだから、少しはアカデミックな時間をとったらどうかね」
そういうとご主人様は、ラテン語だかギリシャ語だかの分厚い本を僕の前に放り投げ、オペラを流すと、ソファに横になるのが日課になってしまったんだよ。
いくらなんでも、そんな難解な本を前にしただけで、最近寝不足のボクは、分殺でまぶたが重くなってしまうんだよ。
ご主人様は、向こうでアイーダを聴いている。昨日はトスカだったっけ。
ボクはね、ひたすら眠いのを我慢して、本の活字とにらめっこしているんだよ。でももうだめだ。やっぱり眠いや。



お疲れ様でした。
では、続編にお進みくださいね。
by hirune-neko | 2008-06-20 21:42 | 創作への道 | Comments(0)
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昼寝ネコのプロフィール
・1951年
 小さいころ、雨ざらしで目ヤニだらけの捨てネコを拾ってきては、親から小言をいわれる。小学校低学年の音楽と図工は通信簿が「2」。中学からバスケを始めるも、高校2年で部活を止め、ジャズ喫茶通いが日課となる。授業が退屈でがまんできず、短編小説を書いては授業中のクラスで強制的に回覧させ、同級生の晩学を妨げることしばしば。早く卒業してほしいと、とくに物理の先生が嘆いていたようだ。ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーンに心酔。受験勉強をすっかり怠り、頭の中は浸水状態。

・1969年 
 中央大学経済学部入学
 まぐれで合格するも、東大安田闘争・70年安保闘争などの影響で神田界隈はマヒ状態。連日機動隊がやってきて大学はロックアウト・封鎖の繰り返し。すっかり希望を失い、大いなる時間の浪費が始まる。記憶に残っているのは、ジャズを聴いたこと、大学ノートに何やら書きなぐったこと、ぼーっと考えごとをすること。数限りなく、雑多なアルバイトをやったこと。一応は無難にこなした・・・はずだ。いろいろ本を買いあさったが「積ん読状態」で、ただ、アルベール・カミュの作品には衝撃を受ける。それと、寮生活だったので、嫌いだった納豆を食べられるようになったのは、収穫だった。

・1974年 
 同大学卒業
 1年留年し、5年かけてなんとか卒業。理由は単位を落としたからだが、結局5年間の学生生活で授業に出席したのは、おそらく数十日ではなかったろうか。毎回レポート試験で単位をいただいたが、ほとんどは寮生仲間に「餃子ライス」を報酬に、作成を代行してもらった。今さら卒業証書を返還せよといわれても、もう時効だろう。白門同窓生の恥部であることは、重々自覚している。
     
・2006年 
 現在に至る
 プロポーズしたら1週間待ってくれという。そんなに待てないといったら、翌日ハート型のケーキを焼いて待っていてくれた。世の中には奇特な女性がいるものだ。おまけに4人も子どもを産み育ててくれて・・・育児放棄の夫に寛大な女性で・・・おまけに子どもたちは・・・三人の息子と息子のような娘が一人なのだが・・・父親を反面教師として、なんとか実社会に順応している。大したものだ。わが家には、「親の七光り」など存在せず、「子の七光り」で恩恵をいただいているようなものだ。

・2010年 宇宙の旅
 人生も、それなりに辛抱して生きていれば、悪いことばかりではないなと思っている。2010年には、どこで何をしていることやら。宇宙のチリになっているのか、地中に埋もれているのか、はたまた相変わらず時間を見つけては昼寝三昧なのか、こればかりは全く予測がつかない。

・現在
 このブログを始めた頃、2010年なんてずっと未来の存在だった。でも、気がついてみたら2010年はすでに過去のできごとになってしまった。2013年になり、もうじき2014年になろうとしているこの時期に、改めてブログに書き残された何編もの雑文が、自分の心の軌跡という遺産になっていることを感じている。6年前に「昼寝ネコの雑記帳」という単行本を出版した。最近は「続・昼寝ネコの雑記帳~創作短編集」を発刊しようと、密かに機会を窺っている。
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