昼寝ネコの雑記帳

Fish Cathcer

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私には、実は恋焦がれた雄ネコがいたんです。
私はもう14歳ですから、
人間の年齢にすれば80ン歳でしょうか。
昼寝をしたふりをしていますが、実は私にだって
忘れたい深い苦悩があるんです。

そうそう、青春時代をマルセイユで過ごしていましたが、
今でも目に浮かぶのは、その彼の敏捷でしなやかな姿。
港町中の雌ネコの憧れでした。
だって、漁を終えた船がマルセイユの港に入ってくると、
目にも止まらぬ速さで、魚箱からあっという間に
何匹も新鮮な魚をちょうだいしてくるんですもの。
ああ、格好いいだけでなく、
なんて生活力のあるお方なのかしら・・・
適齢期の雌ネコだけでなく、
離婚したり亭主と死に別れになった
おばさんネコまでもが、
ウルウルした眼で見るのでした。

健康そうで敏捷でアスリート体型、
生活力あり・・・条件がいいんです。
でも私の彼に対する見方は少し違いました。

ある日の夕方、狭い裏通りに
車のブレーキの音が響きました。
視力の弱い子猫が、車に轢かれたのです。
右の前足がつぶれて出血し、
ショックを受けたその子猫は、
助けを求めて必死に鳴き続けました。
でも、親ネコは、少しの間様子を見ていましたが、
もう助からないと判断したのか、
その場から立ち去ってしまいました。
ネコが薄情に思われるのは、
こういう習性からかもしれません。
でも、実際には状況をちゃんと見極めて、
他の子猫たちを守ることを
優先しているだけなのです。
内心はとても心を痛めているんです。
さて、私自身もネコですから、
自分の身を危険にさらしてまで
ましてや死にかかっている
他人ネコを助けようなんていうことは
できようはずがありません。
でもね、私はとても損な性格で、
見て見ないふりができないんですよ。
車が途絶えた隙に、車道に行き、
怪我した子猫をくわえて
自分の隠れ場所に連れて行ったんですよ。
さあ、痛がって泣きやまない子猫の傷を舐めてやり、
しっかりしなさいと、気休めの励ましをし・・・
エサを探しに行く時間なんてないんですよ。
何か物音がしたと思ったら、
魚の頭が何個か置いてありました。
それから毎日、決まった時間に二度、
新鮮な魚が置いてありました。
誰だか知らないけれど、
さすがマルセイユの人情ネコ・・・
心の中で、私は嬉しさと感動を覚えていました。
・・・でも、看病の甲斐無く、
子猫は六日後に亡くなってしまいました。

ある日、かの憧れの君が私に声をかけてくれました。
話を聞くと、あの事故の日に彼は
私が子猫をくわえて行くのを見て
魚を届けてくれたんだそうです。
それより驚いたのは、彼自身がその子猫を引き取ろうと
様子を伺っていたというではありませんか。
私がでしゃばってくわえていったので、食べ物を届けようと
考えたそうなんです。なんてお優しい方・・・
私の眼はきっとハート型だったでしょう。

彼のお話は続きました。
最近どうも体調が悪く、動物病院の裏口から
知り合いの獣医さんを訪ねたのですが、
診断によれば、厄介な血液の病気で、
寿命は長くないとのこと。
自分の命が短いのなら、病気のネコたちのために
一生懸命働いて、少しでも健康を取り戻してもらおう。
そう思った彼は、毎日港に行き
新鮮な魚を捕っては、
病気がちのネコたちに届け始めました。
ですから、傍目には
生活力があるネコだと映ったのでしょう。

彼は私にいいました。
私は他のネコたちと違って、条件や外見でなく、
自分の生き方そのものを理解し、
受け入れてくれる存在だと・・・。
もし自分の病気が治ったら、一緒に暮らして
元気な赤ちゃんを何匹も作ろうね。
彼はそういってくれたんです。

キューピッドの矢が、私のハートを射抜きました。

でもね、人間社会同様、ネコの世界だって
そんなにいいことばかりが続く訳がないんですよ。
ほんの数週間後、岸壁で足を滑らせた彼は、
船と岸壁の間に身体を挟まれて、あっけなく
帰らぬ人となってしまいました。

その知らせを聞いたとき、
私は自分の眼と耳と運命を疑いました。
一生懸命にお世話すれば、
血液の病気も早く治るのでは・・・
そんな希望を抱いて、
寝床の周りにはジャスミンの花を敷き
香水屋の裏口で待っていて、
少しでも残っているビンがあれば持ち帰り
私たちの住まいが少しでも快適になるよう努力したんです。

マルセイユにいたら、波の音を聞いても、
船のエンジンの音を聞いても
空を流れる雲を見ても、
彼のあの敏捷な姿が目に浮かぶんです。
とてもつらい毎日でした。

このままマルセイユに住み続けることはできない。
そう思った私は、次に波止場に着く船に乗って、
どこでもいいからこの町から離れようと決心しました。

翌日、行く先も分からないまま、
私は船に紛れ込みました。
何日間を過ごしたことでしょう。
船は日本の川崎港に着きました。
道に迷ってお腹を空かしていたとき、
今の飼い主に拾われました。
そうなんです、昼寝ネコです。
で、私のことをいつも寝ているとか、
起きているのを見たこといがないとか
無神経に勝手なことをいっていますが、
マルセイユのことを思い出すたびに、
悲しい表情を見られたくないものですから、
寝たふりをしているだけなんです。

もしかしたら、今頃は孫やひ孫に囲まれて
彼と一緒にマルセイユの港町で
幸せな老後を送っていたかもしれないんです。
誰にだって、人には話したくない思い出があるものです。
いつか昼寝ネコにお話しして聞かせてもいいんですが、
ネコの心情を理解できるデリカシーがあるかどうか
それはちょっと分かりません。

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by hirune-neko | 2007-08-29 00:43 | 音楽・映画・本の世界 | Comments(4)
Commented by ケ・セラ・ソラ at 2007-08-29 06:40 x
昨夜、小雨の舞う夜道をさまよっている犬を見かけました。
たぶん家から脱走したか・・飼い主の帰りを待ちわびて走り出たのか・・

何度か道路を渡ろうとしてあわや・・運転中の私はどうする事も出来ませんでしたが、しばらくバックミラーからその小さな姿を目で追っていました。
無事、飼い主の腕に抱かれたかなぁ・・心配です。

Commented by hirune-neko at 2007-08-29 12:40
>ケ・セラ・ソラ

昨夜の犬って、大丈夫だったでしょうかね。
心配ですね。でも、昨夜あたりから暑さが和らいできたような
感じがしますね。秋が待ち遠しいです。
Commented by バオバブ at 2007-08-29 23:01 x
大好きな『100万回生きたねこ』を思い出しました。
人間に飼われている境遇が嫌いなトラ猫は何度も生まれ変わり、
最後には野良猫になった事ではじめて恋愛を経験するんですが、
愛によって彼の人生でいちばん大切なものは何か...を知った事で彼の魂は浄化されあの世で幸せに暮らすことが出来る。
猫には猫の...人間には人間のストーリーがあるのですよね。
だとしたら、昔観たど真面目な映画『ゴキブリ達の黄昏』なんてのも、あり? わ〜〜〜〜〜〜い気持ち悪。
Commented by hirune-neko at 2007-08-30 00:22
>バオバブさん

私の年齢になると、なかなか純粋無垢な恋愛ストーリーは
そう簡単に書けるものではありません。でも、心情は常に
純粋でありたいと願っています。
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昼寝ネコのプロフィール
・1951年
 小さいころ、雨ざらしで目ヤニだらけの捨てネコを拾ってきては、親から小言をいわれる。小学校低学年の音楽と図工は通信簿が「2」。中学からバスケを始めるも、高校2年で部活を止め、ジャズ喫茶通いが日課となる。授業が退屈でがまんできず、短編小説を書いては授業中のクラスで強制的に回覧させ、同級生の晩学を妨げることしばしば。早く卒業してほしいと、とくに物理の先生が嘆いていたようだ。ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーンに心酔。受験勉強をすっかり怠り、頭の中は浸水状態。

・1969年 
 中央大学経済学部入学
 まぐれで合格するも、東大安田闘争・70年安保闘争などの影響で神田界隈はマヒ状態。連日機動隊がやってきて大学はロックアウト・封鎖の繰り返し。すっかり希望を失い、大いなる時間の浪費が始まる。記憶に残っているのは、ジャズを聴いたこと、大学ノートに何やら書きなぐったこと、ぼーっと考えごとをすること。数限りなく、雑多なアルバイトをやったこと。一応は無難にこなした・・・はずだ。いろいろ本を買いあさったが「積ん読状態」で、ただ、アルベール・カミュの作品には衝撃を受ける。それと、寮生活だったので、嫌いだった納豆を食べられるようになったのは、収穫だった。

・1974年 
 同大学卒業
 1年留年し、5年かけてなんとか卒業。理由は単位を落としたからだが、結局5年間の学生生活で授業に出席したのは、おそらく数十日ではなかったろうか。毎回レポート試験で単位をいただいたが、ほとんどは寮生仲間に「餃子ライス」を報酬に、作成を代行してもらった。今さら卒業証書を返還せよといわれても、もう時効だろう。白門同窓生の恥部であることは、重々自覚している。
     
・2006年 
 現在に至る
 プロポーズしたら1週間待ってくれという。そんなに待てないといったら、翌日ハート型のケーキを焼いて待っていてくれた。世の中には奇特な女性がいるものだ。おまけに4人も子どもを産み育ててくれて・・・育児放棄の夫に寛大な女性で・・・おまけに子どもたちは・・・三人の息子と息子のような娘が一人なのだが・・・父親を反面教師として、なんとか実社会に順応している。大したものだ。わが家には、「親の七光り」など存在せず、「子の七光り」で恩恵をいただいているようなものだ。

・2010年 宇宙の旅
 人生も、それなりに辛抱して生きていれば、悪いことばかりではないなと思っている。2010年には、どこで何をしていることやら。宇宙のチリになっているのか、地中に埋もれているのか、はたまた相変わらず時間を見つけては昼寝三昧なのか、こればかりは全く予測がつかない。

・現在
 このブログを始めた頃、2010年なんてずっと未来の存在だった。でも、気がついてみたら2010年はすでに過去のできごとになってしまった。2013年になり、もうじき2014年になろうとしているこの時期に、改めてブログに書き残された何編もの雑文が、自分の心の軌跡という遺産になっていることを感じている。6年前に「昼寝ネコの雑記帳」という単行本を出版した。最近は「続・昼寝ネコの雑記帳~創作短編集」を発刊しようと、密かに機会を窺っている。
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