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昼寝ネコの雑記帳

観劇記「南武線誕生物語」〜夢みる男たち


Astor Piazzolla - Woe


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 川崎と立川を結ぶ「南武線」が誕生するまでの関係者達の苦労を、史実を踏まえて舞台化した作品だ。開業から90年というから、やがて1世紀になろうという由緒ある路線である。

 インターネット上に溢れる話題は、北朝鮮のミサイル問題であり、韓国における親北大統領の誕生であり、トランプ大統領の弾劾問題であり、中国が主導する国際金融機関AIIBの経営実態の脆弱さであり、・・・いずれも目が離せない緊迫した状況が錯綜している。

 もしかしたら明日にも、緊急事態が発生するかもしれない、という緊張した毎日を私たちは生きている。情報の断片ひとつひとつに一喜一憂し、知れば知るほど神経が休まらない。

 改めて90年という歳月を遡行し、当時の先人の舞台裏の苦労や、目に見えない理念・哲学を舞台上に再現しようという試みである。

 脚本家は小川信夫先生で、今回が第6弾となる。川崎市民劇というだけあり、いずれも、川崎の地にちなんだテーマを脚本化している。
2006年 「多摩川に虹をかけた男〜田中兵庫物語」
2008年 「池上幸豊とその妻」
2011年 「枡形城 落日の舞い」
2013年 「大いなる家族〜戦後川崎ものがたり」
2015年 「華やかな散歩」

 今すでに存在するものを、そのあるがままの姿でしか捉えないならば、目に見える表象しか理解することはできないだろう。しかし、最初に存在した理念を、具体的な形にしていく過程の苦労と努力を知るならば、表層からは伝わってこない「ぬくもり」を体感することができる。ときとして、身命を賭して後世の人たちのために遺してくれた関係者に対する、敬愛と尊敬の情が湧き上がってくるのではないだろうか。

 日常生活で、何気なく乗降していた南武線に対し、新たな感情移入をするようになるのではないだろうか。欲得ではなく、地域の人、後世の人のために信念を貫いた先人に対する情は、そのまま郷土愛につながっていくだろう。

 浅野財閥や安田財閥の創業者が登場する。苦難の環境をはねのけ、経営哲学を確立していく彼等の魂を再現したのは、脚本家の筆力である。その慧眼に、改めて敬意を表したい。

 舞台は映画同様、総合芸術である。目に見えない着想に始まり、脚本、演出、演技、舞踊、音楽、照明、衣装、大道具、小道具、音響、映像・・・おそらくは仕事を持ちながら、乏しい時間の中で、それぞれの役割を果たすことに努力されたはずだ。

 舞台作品は映画と違い、ある意味では再生の効かない瞬間芸術でもある。一瞬の気の緩みが集中力を欠き、予測しない思わぬ事故につながることもある。コンディションの維持と集中力が要求される、負荷の大きい、緊張した時間であり空間である。

 冒頭の雲の流れる映像が自然で、印象的だった。舞台装置も自然でリアリティがあった。照明も違和感がなく自然だったし、衣装も登場人物のキャラクターを引き立たせるよう吟味されていたと思う。音楽も決して出しゃばらず、場面ごとの感情イメージを想起する助けになっていた。登場人物の皆さんは・・・ベテラン俳優さん達の落ち着いた演技が、場面のリアリティを引き立たせていた。若手の皆さんには、それぞれの人物になりきろうとする、真摯な演技努力を感じた。唯一、メークに関しては、2階席の中段に座ったことと、持病の白内障のため的確なコメントを書くことができない。しかし、終演後にロビーで挨拶されていた皆さんを見たが、自然な感じだった。
・・・もっとも、私に舞台メークを語れるような資質や経験があるわけがない。

 最後にひとつだけ、私の好みから希望を言わせていただくと・・・音楽でいうところの「間」が、もう少し効果的にほしかったように感じた。登場人物の葛藤や苦悩から生まれる、内省や自省という無言の演技が「間」の中に浮遊していれば、作品のさらなる深さと幅に貢献しただろうし、観客の作品に対する理解や共感・共鳴もさらに深化したのではないだろうか。

 ・・・お前が自分でやってみろ、という声が聞こえそうだが、私はあくまでも一観客として、鑑賞することしか能がないので、お許しいただきたい。

 登場人物が作品中の台詞で語っていたが、経営者にとって、事業というのは単に「収益」という側面だけでなく、「夢やロマン、使命」という要素が中心になければならない、という哲学には大変共感を覚えた。

 相変わらず、小川信夫作品に通底する、弱者への温かい視線を感じることができたのは救いだった。壮大なスケールの構想作品だったので、舞台という限定空間での、しかも限られた時間内での「時代再生」には、ご苦労が多かったことと思うが、キャスト、スタッフの皆さんの意思と意識が結集して完成された、立派な作品だった思う。

 引き続き、有意義な大作を作り続けていただきたいと、期待したい。

(残りの公演情報)主催:川崎郷土・市民劇上演実行委員会
・5月20日(土)13:30
・5月21日(日)13:30
  いずれも、エポックなかはら(南武線武蔵中原駅から1分)


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by hirune-neko | 2017-05-20 01:25 | 創作への道 | Comments(0)
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妄想から始まり、脳内人格を与えられた不思議な存在

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昼寝ネコのプロフィール
・1951年
 小さいころ、雨ざらしで目ヤニだらけの捨てネコを拾ってきては、親から小言をいわれる。小学校低学年の音楽と図工は通信簿が「2」。中学からバスケを始めるも、高校2年で部活を止め、ジャズ喫茶通いが日課となる。授業が退屈でがまんできず、短編小説を書いては授業中のクラスで強制的に回覧させ、同級生の晩学を妨げることしばしば。早く卒業してほしいと、とくに物理の先生が嘆いていたようだ。ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーンに心酔。受験勉強をすっかり怠り、頭の中は浸水状態。

・1969年 
 中央大学経済学部入学
 まぐれで合格するも、東大安田闘争・70年安保闘争などの影響で神田界隈はマヒ状態。連日機動隊がやってきて大学はロックアウト・封鎖の繰り返し。すっかり希望を失い、大いなる時間の浪費が始まる。記憶に残っているのは、ジャズを聴いたこと、大学ノートに何やら書きなぐったこと、ぼーっと考えごとをすること。数限りなく、雑多なアルバイトをやったこと。一応は無難にこなした・・・はずだ。いろいろ本を買いあさったが「積ん読状態」で、ただ、アルベール・カミュの作品には衝撃を受ける。それと、寮生活だったので、嫌いだった納豆を食べられるようになったのは、収穫だった。

・1974年 
 同大学卒業
 1年留年し、5年かけてなんとか卒業。理由は単位を落としたからだが、結局5年間の学生生活で授業に出席したのは、おそらく数十日ではなかったろうか。毎回レポート試験で単位をいただいたが、ほとんどは寮生仲間に「餃子ライス」を報酬に、作成を代行してもらった。今さら卒業証書を返還せよといわれても、もう時効だろう。白門同窓生の恥部であることは、重々自覚している。
     
・2006年 
 現在に至る
 プロポーズしたら1週間待ってくれという。そんなに待てないといったら、翌日ハート型のケーキを焼いて待っていてくれた。世の中には奇特な女性がいるものだ。おまけに4人も子どもを産み育ててくれて・・・育児放棄の夫に寛大な女性で・・・おまけに子どもたちは・・・三人の息子と息子のような娘が一人なのだが・・・父親を反面教師として、なんとか実社会に順応している。大したものだ。わが家には、「親の七光り」など存在せず、「子の七光り」で恩恵をいただいているようなものだ。

・2010年 宇宙の旅
 人生も、それなりに辛抱して生きていれば、悪いことばかりではないなと思っている。2010年には、どこで何をしていることやら。宇宙のチリになっているのか、地中に埋もれているのか、はたまた相変わらず時間を見つけては昼寝三昧なのか、こればかりは全く予測がつかない。

・現在
 このブログを始めた頃、2010年なんてずっと未来の存在だった。でも、気がついてみたら2010年はすでに過去のできごとになってしまった。2013年になり、もうじき2014年になろうとしているこの時期に、改めてブログに書き残された何編もの雑文が、自分の心の軌跡という遺産になっていることを感じている。6年前に「昼寝ネコの雑記帳」という単行本を出版した。最近は「続・昼寝ネコの雑記帳~創作短編集」を発刊しようと、密かに機会を窺っている。
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