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昼寝ネコの雑記帳

久し振りに聴き、放置したままの作品を思い出した


Astor Piazzolla - Oblivion


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かつて、ある福祉団体の依頼で、
東日本大震災の被災者向け特別版、名入れ絵本を製作した。

被災者は、青森県から福島県に至るまでの,
実に広範囲な地域に分布していた。
住むことのできなくなった家を後にし、
遠くに疎開してる人が多かったので、地方新聞社にお願いして
絵本の無料寄贈プログラムを記事にするよう、お願いして回った。

通常はお父さんとお母さんのもとに、
赤ちゃんが生まれるという文章がほとんどだ。
しかし、東日本大震災の場合は、子どもを亡くした親
そして親を亡くした子どものための文章がほとんどだった。
もともと、天使版という文章がある。、
出産前にお子さんが天使になったり、あるいは
出産直後に天使になったケースのための文章だ。

その天使版の文章をベースにして、親や子を亡くした
皆さんのための文章を新たに考えた。
考えた、といっても実際には皆さんの心中を察すると、
なかなか筆が進まなかった。

やがて、絵本を受け取った人たちから、寄贈者に対するお礼の葉書が届き、
そのコピーが転送されてきた。
津波で全てを流されてしまったので、楽しかった頃や
幸せだった頃を思い出せるものが何も残っていない、
という内容の葉書を目にした。
さらに、寄贈された、我が子の名前が入った絵本を見て、
失った子どもとの、佳き思い出として大切にしたい、
と書かれていた。

言葉では表現できない、突然の悲しみが十分に伝わって来た。
自然と涙が溢れてきた。
同時に、自分の拙い文章が極限状況の方の心に届き、
慰めになったことを知って、嬉しく思った。

訪れた新聞社は、北海道、青森、岩手、宮城、福島の
合計10数社だった。
何かのご縁があったのだと思うが、岩手県大船渡市にある
東海新報社に、何度か繰り返しお邪魔するようになった。

小さな子ども二人を残して、過労から突然死した息子の
母だと名乗る女性から電話があった。
津波で亡くなったのではないが、それでも絵本を申し込めるか、
というのが電話の主旨だった。
作成して、お孫さん二人の分をお送りした。
その後、東海新報社が紙上で、私のブログ記事の中から
気仙に関するものを10数編選定し、連載してくれた。
それを読んだおばあちゃんが、私が好物だと書いた
「かもめの玉子」を送ってくれた。
翌年には、生のサンマを氷に入れて、送ってくれた。

地元に、日本将棋連盟の大船渡支部があることが分かり、
支部長さんと観戦記を書く方にもお会いした。

大勢の命を呑み込んだ海の色は、深緑色で神秘さを湛えていた。
海岸線を車で走り、いつしか時代小説「気仙しぐれ雪」という名の
悲恋物語が思い浮かんだ。
時代小説なのだが、幕開けでピアソラのRemembrance(想い出)、
最終シーンでは冒頭で紹介したOblivion(忘却)を使おうと決めた。
偶然だが、ピアソラが「ヘンリー4世」というイタリア映画のために
作曲し、最初と最後に使用したのが、これらの2曲だったことを
後日になって知った。
何やら因縁を感じたものだ。

公私ともに多忙な日々が続いたため、十分な時間を割いて
脚本を書くことができないまま、何年も経ってしまった。

その後、気仙の赤ちゃんのため、専用のイラストを描いていただいたが、
財源がなくても寄贈できる態勢を整えるのに、ずいぶん時間がかかった。
印刷会社の協力も得られることになり、なんとか近々実現しそうだ。

改めて大船渡を訪れ、東海新報社に協力をお願いするつもりだ。
お孫さんとおばあちゃんも、また訪ねてみたいし、
将棋の大船渡支部にもお邪魔したい。

仮に「気仙しぐれ雪」の脚本が完成し、選曲や音源も確保し、
さらには語り部の老女役を確保し、舞の振り付け師も確保したとしても、
最大の難関は、劇中で舞う「女優」さんを説得することだ。
親馬鹿かもしれないが、昔、川崎市民劇で城主の妻役として
舞を披露した娘の立ち姿が強く印象に残っており、
その娘に頭を下げて出演をお願いしようと決めている。

私以上に、融通の利かない娘なので、果たしてなんていわれるか、
今からそれを一番心配している。


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by hirune-neko | 2016-09-19 00:58 | 創作への道 | Comments(6)
Commented by きいろ香 at 2016-09-19 11:30 x
Remembrance(想い出)と
Oblivion(忘却)でふと思い出した話です。

思い出と記憶の違いとは?

「思い出をその記憶と分かつものは何もない。そしてそれがどちらであれ、それが理解されるのは常に後になってからのことでしかない。」

これは、SFアニメ映画「イノセンス」の中に出てくる台詞です。

今まで考えた事も無かったので、すごく気になる台詞でした。

そして、森博嗣のミステリー小説「すべてがFになる」での主人公、犀川創平と西之園萌絵の会話。

(犀)「思い出と記憶って、どこが違うか知っている?」犀川は煙草を消しながら言った。
 (西)「思い出は良いことばかり、記憶は嫌なことばかりだわ」
 (犀)「そんなことはないよ。嫌な思い出も、美しい記憶もある」
 (西)「じゃあ、何です?」
 (犀)「思い出は全部記憶しているけどね、記憶は全部は思い出せないんだ」

なんと言いますか、良い記憶も嫌な記憶も、無意識に自分でベッタリとインプットしてしまっているのが思い出という事なんでしょうか?

となると、Remembrance(思い出)からのOblivion(忘却)という作業は、人間にとってはかなり難儀な作業と言えます。

忘れたい事に限って思い出したりしますね、そう言えば・・・(ー ー;)
Commented by hirune-neko at 2016-09-19 12:35
きいろ香さん

コメントを有難うございました。

記憶と思い出の対比は、理論的、哲学的に論ずるより、
感覚的に捉えた方が、すっきり分かりやすいかも
しれませんね。

でも、作品中でそのような考察が出てくるなんて、
なかなかの感性の方ですね。
感心しました。

個人的には、思い出は甦ってきて懐かしむことができる
ような感じであり、記憶は単に無機的に甦ってくる、
というような印象です。

いい思いでも、思い出したくない記憶も、
それらが錯綜しながら、その人の心の中に陰影を刻み、
それがその人の人間的な魅力になるのだと思います。

ですから、過去にどんな選択や過ちがあったとしても、
それらをどのように乗り越えたかで、その人の価値が
高められ、また、単なる記憶に命が吹き込まれて、
思い出のひとつに昇華される、と思います。

お互いに、前をむいて歩いて行きましょう。(笑)
Commented by 日本晴れ at 2016-09-21 00:11 x
(毎度のごとく) 横から失礼します。

きいろ香様のコメントが非常に興味深く、自分でもネット検索してみました。
「記憶 思い出」でググッてみると、「記憶 と 思い出 の違い」に関する多くのブログ記事が出てきました。
その中で、現代文の教師をやってらっしゃると思われる方の、生徒達から出てきた答えを紹介したものが素敵だったので、urlを貼らせて頂きます。
http://ncode.syosetu.com/n8921cm/

個人的な解釈としては、記憶=脳内において覚えてる(つもりの)こと、思い出 = 回想 = 追憶 = 記憶に感情を伴い良くも悪くも懐かしい感情や印象でぼやかされたもの、という感じがします。memories と reminiscence の違い⁉︎でしょうか... コトバのニュアンスって面白いですね。 勉強になりました。
Commented by 千波矢 at 2016-09-21 20:48 x

◇あの大津波は、思い出の縁(よすが)を根こそぎ奪ったのだということに、初めて思い至ったように思います。
 
 何と、無慈悲であったことか…

 
被災地での日々の暮らしのご苦労は思いやっても、魂の行方までは考えを巡らすことはなかったように思います。
  
何と、残酷であったことか…
 
 
 
◇心を伴った時、記憶は思い出になるのではないでしょうか?

            千波矢



Commented by hirune-neko at 2016-09-21 22:51
日本晴れさん

コメントを有難うございました。

記憶は、その人の感性を形成する重要な
要素だと思います。
過去から押し寄せる記憶の洪水に、流されそうに
なることもありますが、基本的には
遥か前方の道標を見失わないようにしたいと思います。
Commented by hirune-neko at 2016-09-21 22:56
千波矢さん

コメントを有難うございました。

津波に流された後の、廃墟のような光景は
言葉で表現するのが、なかなか困難です。
気仙の子どもたちに「創作コンクール」を
提案しようと企画しましたが、資金的な
支援者なしでは実現が困難なプロジェクトです。
諦めてはいませんが、何ごとも一気にはできないですね。

私自身、被災者の皆さんに身近に接し、
疑似体験をすることができましたので、
今後に活かしたいと思っています。
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妄想から始まり、脳内人格を与えられた不思議な存在

by hirune-neko
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昼寝ネコのプロフィール
・1951年
 小さいころ、雨ざらしで目ヤニだらけの捨てネコを拾ってきては、親から小言をいわれる。小学校低学年の音楽と図工は通信簿が「2」。中学からバスケを始めるも、高校2年で部活を止め、ジャズ喫茶通いが日課となる。授業が退屈でがまんできず、短編小説を書いては授業中のクラスで強制的に回覧させ、同級生の晩学を妨げることしばしば。早く卒業してほしいと、とくに物理の先生が嘆いていたようだ。ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーンに心酔。受験勉強をすっかり怠り、頭の中は浸水状態。

・1969年 
 中央大学経済学部入学
 まぐれで合格するも、東大安田闘争・70年安保闘争などの影響で神田界隈はマヒ状態。連日機動隊がやってきて大学はロックアウト・封鎖の繰り返し。すっかり希望を失い、大いなる時間の浪費が始まる。記憶に残っているのは、ジャズを聴いたこと、大学ノートに何やら書きなぐったこと、ぼーっと考えごとをすること。数限りなく、雑多なアルバイトをやったこと。一応は無難にこなした・・・はずだ。いろいろ本を買いあさったが「積ん読状態」で、ただ、アルベール・カミュの作品には衝撃を受ける。それと、寮生活だったので、嫌いだった納豆を食べられるようになったのは、収穫だった。

・1974年 
 同大学卒業
 1年留年し、5年かけてなんとか卒業。理由は単位を落としたからだが、結局5年間の学生生活で授業に出席したのは、おそらく数十日ではなかったろうか。毎回レポート試験で単位をいただいたが、ほとんどは寮生仲間に「餃子ライス」を報酬に、作成を代行してもらった。今さら卒業証書を返還せよといわれても、もう時効だろう。白門同窓生の恥部であることは、重々自覚している。
     
・2006年 
 現在に至る
 プロポーズしたら1週間待ってくれという。そんなに待てないといったら、翌日ハート型のケーキを焼いて待っていてくれた。世の中には奇特な女性がいるものだ。おまけに4人も子どもを産み育ててくれて・・・育児放棄の夫に寛大な女性で・・・おまけに子どもたちは・・・三人の息子と息子のような娘が一人なのだが・・・父親を反面教師として、なんとか実社会に順応している。大したものだ。わが家には、「親の七光り」など存在せず、「子の七光り」で恩恵をいただいているようなものだ。

・2010年 宇宙の旅
 人生も、それなりに辛抱して生きていれば、悪いことばかりではないなと思っている。2010年には、どこで何をしていることやら。宇宙のチリになっているのか、地中に埋もれているのか、はたまた相変わらず時間を見つけては昼寝三昧なのか、こればかりは全く予測がつかない。

・現在
 このブログを始めた頃、2010年なんてずっと未来の存在だった。でも、気がついてみたら2010年はすでに過去のできごとになってしまった。2013年になり、もうじき2014年になろうとしているこの時期に、改めてブログに書き残された何編もの雑文が、自分の心の軌跡という遺産になっていることを感じている。6年前に「昼寝ネコの雑記帳」という単行本を出版した。最近は「続・昼寝ネコの雑記帳~創作短編集」を発刊しようと、密かに機会を窺っている。
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