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昼寝ネコの雑記帳

人生の最期で、独りになるときの心境


Roberto Goyeneche - Sólo

いつもクリックしてくださり有難うございます。とても励みになっています。


自分の身体の急激な悪化に驚きながらも、あと2年は生きたいと
主治医に訴えたそうだ。
「それは無理ですよ」とはいわない先生で良かったと思う。

カミュを読んだ二十歳の頃は、
「今朝ママンが死んだ。昨日だったかもしれない」
というムルソーの台詞に対し、そんなに違和感は感じなかった。

数日前には、聞き取るのが難しいほどロレツが回らなかったが、
今日はちゃんと聞き取れる。
しかしさすがに弱気な言葉を、口にするようになった。
「もうお互いに覚悟をしよう」
改めてそういわれると、返答に窮してしまう。

抗癌効果のあるサプリメントを、3か月間飲ませている。
めまいが取れたり、吐き気がなくなったり
効果があるように感じるのだが、まだ脳腫瘍が縮小している
実感はない。

酸素水とフランスキクイモが、癌患者に有効だという
データは知っていたし、私自身は癌ではないが、数年間常用している。
フランスキクイモを栽培している人に、母の状況を説明したら、
わざわざ畑に行って掘ってくれ、送ってくれた。
札幌に持っていき、無理矢理食べさせるつもりだ。

身体は動かないし、話すのも不自由になっているが、
意識ははっきりしているし、思考力もある。
今日は、何人もの人たちに迷惑をかけているので、やはり
病院に入った方がいいと思うか、と訊かれた。

冷静・客観的に考えれば、もうすでに日常生活を独力で送れず、
時間の延長線上に待っている、死を迎えるだけの存在だろう。
身体が思うように動かないという、精神的な苦痛は、
閉所恐怖症の私には、痛いほどよく理解できる。

入院すれば、確かに急変したときの対応はすぐにできると思う。
応急手当や症状の緩和治療は、確かに必要だろう。
しかし、ある意味では対話のない世界で、じっと自分と向き合う。
その孤独感は、耐え難いのではないかと想像している。

最期の時を迎える瞬間、孤独感のままで人生を終えるか、
あるいは、心から安心できる家族に見守られて、人生を閉じるか、
最近は、そのことばかり考えている。

現在、1階の6畳の部屋には介護ベッドが置かれており、
93歳の義母が、ほとんど寝たきりで過ごしている。
家内が、札幌から神奈川のわが家に連れてくるよう、申し出てくれた。
義母もそれでいいといってくれている。

母に伝え、気持ちを訊いてみた。
「家の中に、姥捨て部屋を作るから、死にに来たら?」
といってみた。
毎日言い続けている。

医療関係者は、強く反対するだろうと思う。
本人も、そっちの夏は暑さが厳しい、冷房で身体が痛くなる、
引っ越すのは大仕事だ、と否定的な意見を並べていた。
しかし、少しずつ言葉に変化が出てきている。

多くのボランティアの人たちに迷惑になるのなら、
自宅で最期を迎えるという希望は、捨てた方がいいのか、
という葛藤を目の当たりにすると、どこかの施設に入り、
そこで死を迎えるまで過ごしなさいとは、どうしてもいえない。

ムルソーの母親は、確か老人施設で亡くなった。
バスに揺られて、施設に向かったときの情景が甦る。
映画では、マルチェロ・マストロヤンニがムルソーを演じた。
そういえば、当時のガールフレンドから、私がムルソーのようだ
といわれたことを、今、思い出した。彼女も「異邦人」を読んだのだろう。
そして私の感性は、おそらくムルソーのようだったのだろう。

あれから40年以上の歳月が流れ、カミュの描く世界に心酔していた、
無感情、無機質の心は、どうやら大きく変わってしまったようだ。

介護タクシーで千歳空港へ行き、車椅子を押して飛行機に乗せ、
羽田からまた介護タクシーに乗せて、家まで連れてくる。

作り溜めた短歌の整理を誰かに手伝ってもらい、
短歌集を1冊の本にまとめて出版しよう、と希望を持たせている。
手伝いは、隣のベッドの義母に頼もうか、という冗談も出てきた。

どんな人生だったかは、晩年まで分からないと思う。
人間の最期の瞬間の心象風景が、孤独色に染まらないよう
大切に考えてやりたいと思っている。
その方が、私にとって悔いが残らないように思える。

こうして書き連ねながら、あれこれ自問していたが、
私なりに、気持ちの整理がついたような気がする。


いつもクリックしてくださり有難うございます。とても励みになっています。

by hirune-neko | 2016-04-02 00:51 | 心の中のできごと | Comments(7)
Commented by 日本晴れ at 2016-04-02 02:39 x
お疲れ様です。
お母様は癌だったのですか。 医学には疎いのですが、最近は 癌(細胞の存在意義など)を含め、西洋医学的なところとは異なる治療法の発想やアプローチをよく聞きます。
どなたも、ご自身が充分と感じられるところまで生きられるといいですね、人それぞれに天命というものがあるのでしょうが。
即席で恐縮ですが、‘癌に効く’のネット検索結果と、癌を克服された方の興味深いHPを貼らせて頂きます。
ざっと目を通した限り、やはり血のめぐりやデトックス(排毒)、代謝、温熱などの健康の為の基本的要因に繋がるようです。

https://www.google.co.jp/search?sclient=tablet-gws&client=safari&channel=ipad_bm&site=&source=hp&q=%E7%99%8C%E3%81%AB%E5%8A%B9%E3%81%8F&oq=%E7%99%8C%E3%81%AB%E5%8A%B9%E3%81%8F&gs_l=tablet-gws.12..0l3.2820.11999.0.13629.12.12.0.0.0.0.632.1783.1j4j2j5-1.8.0....0...1c.1.64.tablet-gws..4.8.1782.4bcrGhpCUgo

http://terumi.hyoutansui.net/index.php?%E6%9C%80%E5%BE%8C%E3%81%AB

小生の祖母は母方の故郷で、3桁の年齢ですが痴呆、介護施設でお世話になっており、いつ逝ってもおかしくはないらしいですが、見舞いに来る家族の認識もままならぬものの、介護施設スタッフの方々には繰り返し「有り難うございます」で、ある意味素敵な呆けかたかなとも思います。 両親の住む実家から遠く、母も年に一、ニ回お見舞いに行くだけで、あとは地元在住の兄弟姉妹に任せてる状態です。

いずれにせよ、近くに家族がいるというだけで随分気持ちも良くなるでしょうから、お母様がお引越しに乗り気になられるといいですね。
春になり暖かくなってきましたし、お母様、お義母さまが病状回復されることを祈念しております。
Commented by hirune-neko at 2016-04-02 03:18
日本晴れさん

ご親切に、色々調べてくださり、有難うございます。
人間の心の状態が、生きる姿勢を決定すると思っています。
希望や張り合いを失わないよう、工夫してみます。

ところで、余命ハンドブックのレビューを、アマゾンで
わざと最低評価にして、逆説的に最高評価のコメントを
入れたのですが、在日扱いされてしまいましたよ。
私の表現力が未熟なのか、相手の読解力が未熟なのか?
書くことの自信が揺らぎました。

まあ仕方がないですね。

いつも励ましてくださり、有難うございます。
Commented by 日本晴れ at 2016-04-02 13:47 x
お疲れ様です。

今朝、「昼寝ネコの雑記帳」ブログの過去を遡る旅に出掛けました。 先程やっと 2007年のぶんを一通り読み終えました。
ちょっと軽食をとってから、午後は2008年ぶんに突入したいと思います。

お師匠の「余命ハンドブック」レビュー読ませて頂きました。 お師匠ならではのコメントにニヤっとしましたが、星は5つにしておいたほうが良かったかもしれません。 最近は、問題のコメント荒らしも、余命ブログや関連ブログだけじゃなく、Amazonレビューにまで出しゃ張ってきているそうで、おそらくかなり過敏になっている余命ファンの方々がAmazonレビューの星が少ないレビューには手当たり次第 ‘参考に→いいえ’を押しているのではないでしょうか。 もしかすると、以前の余命読者が押しかけたあの伝説的なブログ記事「書籍・余命三年時事日記は、出版史上最悪の書籍だ」 のように、徹底したあちらのヒト目線の文章で、大袈裟に具体的な事実を列挙し、敗北宣言まで入れて、星5つにしておくと良いのかもしれませんね(笑)。 確かAmazonレビューは書き直しも出来そうなので、お暇なときにでも再トライなさって下さい。
Commented by hirune-neko at 2016-04-02 13:55
日本晴れさん

あらあら、そんな昔まで遡って読んでくださってるんですか?
貴重な時間を割いてくださり、有難うございます。

日本晴れさんの助言を受け入れて、ブックレビューは
書き直しますね。

いつもいろいろ考えてくださり、有難うございます。
Commented by hirune-neko at 2016-04-02 14:19
日本晴れさん

ブックレビューを編集し直し、今、反映されました。
お時間がおありになるときに、ご一読いただけますか?

なんとなく、一般の日本人の反韓感情が、広範囲に
先鋭化しているような印象を受けています。
余命主が懸念しているように、日本人の暴発があっても
おかしくないような雰囲気ですね。
Commented by 日本晴れ at 2016-04-02 21:53 x
Amazonレビュー改訂版、読ませて頂きましたよ。 大人の余裕、貫禄ですね(笑)。
ただ、余命ハンドブックの評価以上に、好物の甘いモノへの愛情が突出していまってる印象が強いですが(笑)。

お仕事から私事までご多忙のようですので、甘いモノや映画、音楽等で充分ストレス解消なさって下さい。




Commented by hirune-neko at 2016-04-02 22:24
日本晴れさん

実は、低評価のレビューを楽しみに読みに来る皆さんに、
読ませたいと思って書いたんですが、一般の方が
カッカされるようなので、以前の史上最悪の出版物の
二の舞になることは避けることにしました。
日本晴れさんは、いつも客観的・冷静に助言してくださるので
助かります。
有難うございます。
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妄想から始まり、脳内人格を与えられた不思議な存在

by hirune-neko
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昼寝ネコのプロフィール
・1951年
 小さいころ、雨ざらしで目ヤニだらけの捨てネコを拾ってきては、親から小言をいわれる。小学校低学年の音楽と図工は通信簿が「2」。中学からバスケを始めるも、高校2年で部活を止め、ジャズ喫茶通いが日課となる。授業が退屈でがまんできず、短編小説を書いては授業中のクラスで強制的に回覧させ、同級生の晩学を妨げることしばしば。早く卒業してほしいと、とくに物理の先生が嘆いていたようだ。ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーンに心酔。受験勉強をすっかり怠り、頭の中は浸水状態。

・1969年 
 中央大学経済学部入学
 まぐれで合格するも、東大安田闘争・70年安保闘争などの影響で神田界隈はマヒ状態。連日機動隊がやってきて大学はロックアウト・封鎖の繰り返し。すっかり希望を失い、大いなる時間の浪費が始まる。記憶に残っているのは、ジャズを聴いたこと、大学ノートに何やら書きなぐったこと、ぼーっと考えごとをすること。数限りなく、雑多なアルバイトをやったこと。一応は無難にこなした・・・はずだ。いろいろ本を買いあさったが「積ん読状態」で、ただ、アルベール・カミュの作品には衝撃を受ける。それと、寮生活だったので、嫌いだった納豆を食べられるようになったのは、収穫だった。

・1974年 
 同大学卒業
 1年留年し、5年かけてなんとか卒業。理由は単位を落としたからだが、結局5年間の学生生活で授業に出席したのは、おそらく数十日ではなかったろうか。毎回レポート試験で単位をいただいたが、ほとんどは寮生仲間に「餃子ライス」を報酬に、作成を代行してもらった。今さら卒業証書を返還せよといわれても、もう時効だろう。白門同窓生の恥部であることは、重々自覚している。
     
・2006年 
 現在に至る
 プロポーズしたら1週間待ってくれという。そんなに待てないといったら、翌日ハート型のケーキを焼いて待っていてくれた。世の中には奇特な女性がいるものだ。おまけに4人も子どもを産み育ててくれて・・・育児放棄の夫に寛大な女性で・・・おまけに子どもたちは・・・三人の息子と息子のような娘が一人なのだが・・・父親を反面教師として、なんとか実社会に順応している。大したものだ。わが家には、「親の七光り」など存在せず、「子の七光り」で恩恵をいただいているようなものだ。

・2010年 宇宙の旅
 人生も、それなりに辛抱して生きていれば、悪いことばかりではないなと思っている。2010年には、どこで何をしていることやら。宇宙のチリになっているのか、地中に埋もれているのか、はたまた相変わらず時間を見つけては昼寝三昧なのか、こればかりは全く予測がつかない。

・現在
 このブログを始めた頃、2010年なんてずっと未来の存在だった。でも、気がついてみたら2010年はすでに過去のできごとになってしまった。2013年になり、もうじき2014年になろうとしているこの時期に、改めてブログに書き残された何編もの雑文が、自分の心の軌跡という遺産になっていることを感じている。6年前に「昼寝ネコの雑記帳」という単行本を出版した。最近は「続・昼寝ネコの雑記帳~創作短編集」を発刊しようと、密かに機会を窺っている。
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