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昼寝ネコの雑記帳

甦った、母の笑い声〜ああ、クレモンティーヌだ


Clémentine - Sukiyaki in French (Ue wo muite arukou)

いつもクリックしてくださり有難うございます。とても励みになっています。


「昼寝ネコおじさん!」
「げっ!その声はクレモンティーヌじゃないか」
どうしたんだい、出張?それとも浅草見物?」
「おじさんが大変そうだから、元気づけに行ってこいって」
「誰が?」
「世界昼寝ネコ大会議の議長と理事、全員の許可なんです」
「へえ、おじさんの何が大変だと思ったんだろうね。
・・・まあ、そう思われても仕方がないだろうけど」
「おじさん、昨晩は札幌のお母さんのこと、随分心配したでしょ?」
「げっ!なんでそんなことまで知ってんの?」
「だから、いったでしょ?おじさんは24時間監視されてるって」
「ああ、そういえばそうだったよな」
「呆れた、そんなことも憶えてないんですか?」

いつもは遅くとも11過ぎには消灯し、床につく母なのに、
昨晩は深夜1時を過ぎても明かりが点いていた。
まさかそんな時間に、誰かに行ってもらう訳にもいかないし、
確認の電話で起こす訳にもいかない。そいえば、
電話で話す言葉がほとんど聞き取れないほど、様子が異常だった。

なんとなく厭な予感を感じつつ床についたが、早朝4時に目が覚めた。
気になっていたのでパソコンを立ち上げ、ウェブカメラを開いた。
相変わらず明かりが点けっぱなしだ。
しばらく様子を見ていたが、なんの動きもなかった。
とうとう衰弱したまま、息を引き取ったのだと判断した。
午前4時半、最期の姿の映像をクリップして保存した。
いやあ、長い間ご苦労さんでした、有難うと声をかけた。

おそらくは朝、訪問してきたヘルパーさんから電話が入るだろう。
そう思った瞬間、死んだはずの母が布団を押しのける姿が映った。
なんだ、まだご存命だったのか。
勝手に殺してしまい、大変失礼した。

朝起きて、真っ先にカメラを開いて確認してみた。
ヘルパーさんの様子に変わったところはない。
とりあえず電話して様子を確認した。

もう足に力が入らないので、ベッドに寝たきり状態だといった。
昨日に較べると、話す言葉がちゃんと聞き取れる。
あれは一体なんだったんだろうと、不思議に思った。
「相手のいうことは理解できるし、判断力もあるんだけど、
ものをいうのが難しくなってるんだよ」
「寝たきりだと退屈だろうけど、耳はちゃんと聞こえるの?」
「うん、聞こえるよ」
「ブログを録音して聞きたいっていってたけど、録音して送ろうか?」
「うん、そうだね。そうしてちょうだい」
「分かった、少し待たせるかもしれないけど、録音するね。
優しい息子だと思ってる?」
「(ケタケタ笑いながら)うん、思ってる」

冗談にはちゃんと反応して、可笑しそうに笑う母の声を聞くと、
安堵の気持ちになる。

・・・とまあ、ざっとことの経緯をクレモンティーヌに説明した。
クレモンティーヌは表情を変えず、じっと私を見ている。
「どうしたんだい、クレモンティーヌ。どうかしたのか?」
「おじさん、札幌のお母さんの容態が急変した報せが
ネコネットからパリの緊急センターに届いたの。
それですぐに、一番近くに住んでいる『癒やしネコ』を探して、
お母さんの家に行ってもらったんですよ」
「えっ!?」
「『癒やしネコ』が到着したとき、すでにお母さんは心肺停止状態でした。
『癒やしネコ』はお母さんの胸の上で丸くなり、必死で蘇生したんです。
早朝4時半ごろ、蘇生したという連絡が入りました。
議長がすぐに緊急会議を招集し、日本での大切なミッションを実行中の
おじさんを元気づけるよう、私に日本に飛ぶよう指示がありました。
だって最近のおじさんは、疲れが溜まりすぎていて、
すぐ甘い物に手を出して血糖値は上がるし、仕事中に居眠りするし、
日本が大事な時期にさしかかっているというのにって、
みんな心配してるんですよ」
「いやあ、すっかり監視されてるんだなあ」
「それよりおじさん、大学院の『インテリジェンス論文』の評価が
『A』だったんですね。単位の取得おめでとうございます」
「げっ・・・そこまで筒抜けなのか」
「そんなに気落ちしないで下さいね。おじさんの双肩には、日本国内の
ネコたちの安全と平和がかかっているんですからね。
一段落したら、大会議の経費でフランスに招待するって、
議長が申しています。少しドゥーヴィルにゆっくり滞在して、
昔の懐かしい思い出に浸ってはどうですか?
私も同行しますから」

ああ、ついついいろんな機密情報を公開することになってしまった。
でもまあ、どんなときでもこうして励ましてくれる
クレモンティーヌの存在は有難いものだ。

そうなんだよ、どんなに苦しく辛いときにも、涙がこぼれないように
上を向いて歩けばいいんだよ。
「そうだよな、クレモンティーヌ」
ありゃ、もう姿が見えなくなってしまった。
いつだって台風のように突然やって来て、すぐに消え去ってしまう。

おそらくはどさくさに紛れて浅草に行き、梅園でどら焼きとあんみつを食べ、
雷おこしと舟和の芋羊羹を、自分用のお土産に買っているに違いない。
やはり私の血を引いている・・・おっと、これは誰にもいえない秘密だった。


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by hirune-neko | 2016-03-25 22:30 | 創作への道 | Comments(1)
Commented by 千波矢 at 2016-03-26 23:11 x
◇夢かうつつか、境界が怪しくなってくるような不思議なお話し。
最後の意味深な一言も、本当なのかと…

◇ネコさんが、人の胸の上で丸くなるのは、案外『そういう』ことなのかもしれませんね。
ワン君は、癌を嗅ぎ分ける能力があるといいますしね。

千波矢拝

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妄想から始まり、脳内人格を与えられた不思議な存在

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昼寝ネコのプロフィール
・1951年
 小さいころ、雨ざらしで目ヤニだらけの捨てネコを拾ってきては、親から小言をいわれる。小学校低学年の音楽と図工は通信簿が「2」。中学からバスケを始めるも、高校2年で部活を止め、ジャズ喫茶通いが日課となる。授業が退屈でがまんできず、短編小説を書いては授業中のクラスで強制的に回覧させ、同級生の晩学を妨げることしばしば。早く卒業してほしいと、とくに物理の先生が嘆いていたようだ。ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーンに心酔。受験勉強をすっかり怠り、頭の中は浸水状態。

・1969年 
 中央大学経済学部入学
 まぐれで合格するも、東大安田闘争・70年安保闘争などの影響で神田界隈はマヒ状態。連日機動隊がやってきて大学はロックアウト・封鎖の繰り返し。すっかり希望を失い、大いなる時間の浪費が始まる。記憶に残っているのは、ジャズを聴いたこと、大学ノートに何やら書きなぐったこと、ぼーっと考えごとをすること。数限りなく、雑多なアルバイトをやったこと。一応は無難にこなした・・・はずだ。いろいろ本を買いあさったが「積ん読状態」で、ただ、アルベール・カミュの作品には衝撃を受ける。それと、寮生活だったので、嫌いだった納豆を食べられるようになったのは、収穫だった。

・1974年 
 同大学卒業
 1年留年し、5年かけてなんとか卒業。理由は単位を落としたからだが、結局5年間の学生生活で授業に出席したのは、おそらく数十日ではなかったろうか。毎回レポート試験で単位をいただいたが、ほとんどは寮生仲間に「餃子ライス」を報酬に、作成を代行してもらった。今さら卒業証書を返還せよといわれても、もう時効だろう。白門同窓生の恥部であることは、重々自覚している。
     
・2006年 
 現在に至る
 プロポーズしたら1週間待ってくれという。そんなに待てないといったら、翌日ハート型のケーキを焼いて待っていてくれた。世の中には奇特な女性がいるものだ。おまけに4人も子どもを産み育ててくれて・・・育児放棄の夫に寛大な女性で・・・おまけに子どもたちは・・・三人の息子と息子のような娘が一人なのだが・・・父親を反面教師として、なんとか実社会に順応している。大したものだ。わが家には、「親の七光り」など存在せず、「子の七光り」で恩恵をいただいているようなものだ。

・2010年 宇宙の旅
 人生も、それなりに辛抱して生きていれば、悪いことばかりではないなと思っている。2010年には、どこで何をしていることやら。宇宙のチリになっているのか、地中に埋もれているのか、はたまた相変わらず時間を見つけては昼寝三昧なのか、こればかりは全く予測がつかない。

・現在
 このブログを始めた頃、2010年なんてずっと未来の存在だった。でも、気がついてみたら2010年はすでに過去のできごとになってしまった。2013年になり、もうじき2014年になろうとしているこの時期に、改めてブログに書き残された何編もの雑文が、自分の心の軌跡という遺産になっていることを感じている。6年前に「昼寝ネコの雑記帳」という単行本を出版した。最近は「続・昼寝ネコの雑記帳~創作短編集」を発刊しようと、密かに機会を窺っている。
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