昼寝ネコの雑記帳

ためらいがちな宣教師

Astor Piazzolla "SOLEDAD".


宗教関係の雑誌をめくっていたら
「ためらいがちな宣教師」というタイトルが目に留まった。
筆者はヨーロッパの出身で、数年前に記事の中で
アルベール・カミュの文章に言及しているのを見つけ
嬉しく思った記憶がある。

でも、残念なことに、カタカナで「アルバート・カムス」
と表記されていた。
つまり、Albert Camus なので、そのまま英語読みした訳だ。
私はためらわずに発行元の電話番号を調べ、
クレームの電話を入れた。
電話に出た女性は、口には出さなかったものの
明らかに「で、何か問題があるんでしょうか?」という感じだった。
決してそう言われた訳ではないのだが、
微妙な会話の間(ま)で、洞察力の鋭い(笑)私は、
鋭敏に相手の感情を察知した。
なので、人格者(笑)の私は、
「次回、また翻訳する機会があったら、是非
アルベール・カミュと表記するよう
編集担当者の方にお願いしてください」
それだけ言って電話を切った。

サルトルと同時代の、いわゆる実存主義、そして
不条理主義・・・いずれも無神論哲学者なので
翻訳者や編集者の視野には入らない存在だったのだろう。
学生の頃、最も傾倒したアルベール・カミュの名を
アルバート・カムスと呼称されることは、いささか
受け入れられるものではなかった。

それにしても、「ためらいがちな宣教師」
というタイトルは、なかなか機知に富んでいると思う。
ともすれば、一般的に宗教者は、熱心さのあまり
饒舌になり、情熱を傾けて自派の正当性を主張する。
しかし筆者はアッシジの聖フランチェスコ(1181-1226)の
言葉を引用して、こう述べている。
「すべての行いを通して福音を宣べ伝えなさい。
必要であれば言葉を使いなさい。」
(アッシジの聖フランチェスコ。ウィリアム・フェイと
リンダ・エ バンズ・シェパード,Share Jesus without Fear1999 年)

必要であれば言葉を使って伝えなさい、つまり
逆説的に言えば、言葉を使わなくても
伝える方法がある、という深い意味を・・・
行間を読んで判断しなさいと言うことなのだ。

それにしても
「ためらいがちな宣教師」というのは
なかなかいいタイトルだと感心した。
不正確な腕時計、気まぐれなコンピュータ、
わがままな裁判官、不機嫌なカウンセラー、
・・・そういえば、不揃いの林檎たち、というのもあった。
いつも理詰めで物事を考えるせいか、
こういうファジーな表現にほっとしている。

多分、私自身が、そんな感じのカテゴリーに入る
人間なのだろうと、可笑しく感じている。

ここにも、そこにも、どこにも存在しない自分。
現実を、非現実の世界から迂回して判断する自分。
実年齢と精神年齢と肉体年齢が、極端にアンバランスな自分。
いつも、非常に現実的な夢を見て、目覚めてどっと疲れる自分。
すでに故人となっているピアソラの、感性の残滓を探求する自分。
泣けてくるほど、現実に適合できない自分。
動物好きの相手なら、喜んでネコに生まれ変わりたい自分。

でも、今ではもう、決して自己嫌悪にはなっていない。
変えられない個性や感性とは、一生同居するしかない。
今日、思いがけず知人から送ってもらった
ロイズのチョコレート菓子を食べながら、
ふとそんなことを考えている。
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by hirune-neko | 2013-02-10 23:32 | 心の中のできごと | Comments(0)
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昼寝ネコのプロフィール
・1951年
 小さいころ、雨ざらしで目ヤニだらけの捨てネコを拾ってきては、親から小言をいわれる。小学校低学年の音楽と図工は通信簿が「2」。中学からバスケを始めるも、高校2年で部活を止め、ジャズ喫茶通いが日課となる。授業が退屈でがまんできず、短編小説を書いては授業中のクラスで強制的に回覧させ、同級生の晩学を妨げることしばしば。早く卒業してほしいと、とくに物理の先生が嘆いていたようだ。ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーンに心酔。受験勉強をすっかり怠り、頭の中は浸水状態。

・1969年 
 中央大学経済学部入学
 まぐれで合格するも、東大安田闘争・70年安保闘争などの影響で神田界隈はマヒ状態。連日機動隊がやってきて大学はロックアウト・封鎖の繰り返し。すっかり希望を失い、大いなる時間の浪費が始まる。記憶に残っているのは、ジャズを聴いたこと、大学ノートに何やら書きなぐったこと、ぼーっと考えごとをすること。数限りなく、雑多なアルバイトをやったこと。一応は無難にこなした・・・はずだ。いろいろ本を買いあさったが「積ん読状態」で、ただ、アルベール・カミュの作品には衝撃を受ける。それと、寮生活だったので、嫌いだった納豆を食べられるようになったのは、収穫だった。

・1974年 
 同大学卒業
 1年留年し、5年かけてなんとか卒業。理由は単位を落としたからだが、結局5年間の学生生活で授業に出席したのは、おそらく数十日ではなかったろうか。毎回レポート試験で単位をいただいたが、ほとんどは寮生仲間に「餃子ライス」を報酬に、作成を代行してもらった。今さら卒業証書を返還せよといわれても、もう時効だろう。白門同窓生の恥部であることは、重々自覚している。
     
・2006年 
 現在に至る
 プロポーズしたら1週間待ってくれという。そんなに待てないといったら、翌日ハート型のケーキを焼いて待っていてくれた。世の中には奇特な女性がいるものだ。おまけに4人も子どもを産み育ててくれて・・・育児放棄の夫に寛大な女性で・・・おまけに子どもたちは・・・三人の息子と息子のような娘が一人なのだが・・・父親を反面教師として、なんとか実社会に順応している。大したものだ。わが家には、「親の七光り」など存在せず、「子の七光り」で恩恵をいただいているようなものだ。

・2010年 宇宙の旅
 人生も、それなりに辛抱して生きていれば、悪いことばかりではないなと思っている。2010年には、どこで何をしていることやら。宇宙のチリになっているのか、地中に埋もれているのか、はたまた相変わらず時間を見つけては昼寝三昧なのか、こればかりは全く予測がつかない。

・現在
 このブログを始めた頃、2010年なんてずっと未来の存在だった。でも、気がついてみたら2010年はすでに過去のできごとになってしまった。2013年になり、もうじき2014年になろうとしているこの時期に、改めてブログに書き残された何編もの雑文が、自分の心の軌跡という遺産になっていることを感じている。6年前に「昼寝ネコの雑記帳」という単行本を出版した。最近は「続・昼寝ネコの雑記帳~創作短編集」を発刊しようと、密かに機会を窺っている。
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