昼寝ネコの雑記帳

感性のゼロ初期化

As Good as It Gets, Jack Nicholson


西洋医学でも東洋医学でも
人間の感性を検査し、投薬治療しただなんて聞いたことがない。
最近、「人間の感性はいつ形成されるのか」に
興味を持っている自分に気付き、また呆れている。

生まれた家庭では、両親も祖父母も揃って
ド演歌ファンで、朝から晩まで演歌を聴きながら
酒盛りをするような環境だったとしたら、
そこで育った子どもは高確率で
演歌歌手になるのだろうか?

政治家の子が政治家になり、医者の子が医者になる。
そういう例はたくさん見ているが、それは感性に関わりのない
単に現実的な環境の延長線上に自然に横たわっている
「社会構造」に過ぎないと思う。

私の父方の祖父母と、母方の祖父母は両極端な
人生観に位置していたと思う。
父方の祖父は若い頃から仕事を辞め、家でごろごろし
毎晩人を呼び入れては酒宴、そして大げんか。
飲みかけの日本酒のビンが倒れ、部屋中が
酒臭くなったのは、日常茶飯事のことだった。
やがて大学の寮に入り、歓迎コンパの席で
プラスチック製の黄色いドンブリを持たされ
先輩が一升瓶を持って来て、日本酒を注いだ。
日本酒の匂いを嗅いだ瞬間、まったく受け付けないことに気付いた。
「お前は、先輩の注いだ酒が飲めないのか¡」
先輩は凄んだ。
「飲めません」
あっさりと答え、気まずい雰囲気になったものの
それで済んでしまった。
18歳になったばかりの頃だったが、
すでにある種の達観の原型が具わっていたように思う。

同居していた祖父母は、テレビがなかった当時
ラジオで「ヒロサワトラゾウ」の浪曲を好んで聴いた。
歌人の才を評価している母は、映画好きだったようで
小さな私を背負いながら、映画館に通った。
不思議なことに、まだいくつかのシーンの記憶が残っている。

結局私は、とうとう浪曲ファンにはならず、
これぞという短歌を作って母に添削を頼むものの、
伝え終わった瞬間に吹き出されてしまう始末なので
歌人の道を志したこともない。

もし、人間の感性を目視できる器械が将来、発明されたなら、
私の感性はおそらく「極度に断片化」しており
まず一度修復してから、さらに初期化する必要ありと
診断されるのではないかと思う。
ただ、表面的に初期化しても深層部分には
根深い感性的破綻の断片が多数点在しているため
おそらくは一度「ゼロ初期化」して・・・
すなわち、残存する断片を完全消去するために
ひとつひとつの感性ユニットに、丹念にゼロを埋め込んで
真っさらな感性にオーバーホールすべし、
そう助言されそうな気がする。

でも、そんな私でも、ジャック・ニコルソンの演技を目にすると
なんとなく安心感に包まれてしまう。
ああ、こんな超個性人間でも社会で通用してるんだ。
この人に較べたら、私なんか全然普通の人間じゃないか、
と、かなり自己嫌悪から解き放たされてしまう、
実に敬愛すべき俳優だ。

原題は「As Good as It Gets」で
邦題は「恋愛小説家」。
この映画でジャック・ニコルソンはアカデミー賞の
主演男優賞に、そして相手役のヘレン・ハントは
主演女優賞に選ばれた。1998年のことだ。

でも、熟考するまでもなく、もし私の感性が
未来技術で本当にゼロ初期化を受けてしまったら
毒もなく、ジョークもない、そして自分の創作イメージに
感動して声に詰まってしまうような、へんてこで
意外性のある、規格外の仕様が優等生化され
つまらなくなってしまうだろうと、想像している。
なので、私は私らしく、このままはみ出しの
落ちこぼれのままで、人生を貫くべきだと
たった今、再起動ボタンにカーソルを当てている。
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by hirune-neko | 2012-08-02 23:43 | 心の中のできごと | Comments(0)
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昼寝ネコのプロフィール
・1951年
 小さいころ、雨ざらしで目ヤニだらけの捨てネコを拾ってきては、親から小言をいわれる。小学校低学年の音楽と図工は通信簿が「2」。中学からバスケを始めるも、高校2年で部活を止め、ジャズ喫茶通いが日課となる。授業が退屈でがまんできず、短編小説を書いては授業中のクラスで強制的に回覧させ、同級生の晩学を妨げることしばしば。早く卒業してほしいと、とくに物理の先生が嘆いていたようだ。ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーンに心酔。受験勉強をすっかり怠り、頭の中は浸水状態。

・1969年 
 中央大学経済学部入学
 まぐれで合格するも、東大安田闘争・70年安保闘争などの影響で神田界隈はマヒ状態。連日機動隊がやってきて大学はロックアウト・封鎖の繰り返し。すっかり希望を失い、大いなる時間の浪費が始まる。記憶に残っているのは、ジャズを聴いたこと、大学ノートに何やら書きなぐったこと、ぼーっと考えごとをすること。数限りなく、雑多なアルバイトをやったこと。一応は無難にこなした・・・はずだ。いろいろ本を買いあさったが「積ん読状態」で、ただ、アルベール・カミュの作品には衝撃を受ける。それと、寮生活だったので、嫌いだった納豆を食べられるようになったのは、収穫だった。

・1974年 
 同大学卒業
 1年留年し、5年かけてなんとか卒業。理由は単位を落としたからだが、結局5年間の学生生活で授業に出席したのは、おそらく数十日ではなかったろうか。毎回レポート試験で単位をいただいたが、ほとんどは寮生仲間に「餃子ライス」を報酬に、作成を代行してもらった。今さら卒業証書を返還せよといわれても、もう時効だろう。白門同窓生の恥部であることは、重々自覚している。
     
・2006年 
 現在に至る
 プロポーズしたら1週間待ってくれという。そんなに待てないといったら、翌日ハート型のケーキを焼いて待っていてくれた。世の中には奇特な女性がいるものだ。おまけに4人も子どもを産み育ててくれて・・・育児放棄の夫に寛大な女性で・・・おまけに子どもたちは・・・三人の息子と息子のような娘が一人なのだが・・・父親を反面教師として、なんとか実社会に順応している。大したものだ。わが家には、「親の七光り」など存在せず、「子の七光り」で恩恵をいただいているようなものだ。

・2010年 宇宙の旅
 人生も、それなりに辛抱して生きていれば、悪いことばかりではないなと思っている。2010年には、どこで何をしていることやら。宇宙のチリになっているのか、地中に埋もれているのか、はたまた相変わらず時間を見つけては昼寝三昧なのか、こればかりは全く予測がつかない。

・現在
 このブログを始めた頃、2010年なんてずっと未来の存在だった。でも、気がついてみたら2010年はすでに過去のできごとになってしまった。2013年になり、もうじき2014年になろうとしているこの時期に、改めてブログに書き残された何編もの雑文が、自分の心の軌跡という遺産になっていることを感じている。6年前に「昼寝ネコの雑記帳」という単行本を出版した。最近は「続・昼寝ネコの雑記帳~創作短編集」を発刊しようと、密かに機会を窺っている。
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