居心地のいい場所冷房も要らず、暖房も要らず、軽装でいられ、 電話や来客がなく、宅配便も手紙も来ない。 窓を開ければ遠く水辺線が見え、 かすかに海鳥の鳴き声が聞こえる。 裏手に回れば、自然林があたりを柔らかく包み、 緑が目にまぶしい。 大声を上げる人はなく、高笑いをする人もない。 昨日は遠く忘れ去られ、 明日はしばらく待たなければやって来ない。 目を閉じれば、想像上の人物の生き方が展開し、 思いを語りかけて来る。 彼らの人格も言動も想像した枠をはみ出ない。 野菜や果物は限りなく自然に近くあり、 魚介類や肉類も安心して食べられる。 道を歩けば、建物も街灯もみな、 一枚のキャンバスに描かれたごとく一定の色彩を保ち、 意匠も作家の手になったものと思わせる。 大部分の人は、欲が空しいものであることを悟り、 ほどほどにしている。 自分の生活と同じように、社会や世界を大切に考え、 水や空気の清冽さを意識する。 人は弱い存在であることを理解して、 他人に寛容であり、また、 人は生き方を変えられることを信じている。 数少ない友人たちは、創作意欲に富み、 音楽や文学、歴史や哲学、芸術論に雄弁である。 商才長けたように見える人物も、 実はナイーブであり、葛藤を抱えて仕事をしている。 そんな場があれば、 なんて居心地がいいんだろうと思うに違いない。 それは、探して見つかるものなのか、 あるいは自分で構築していくべきものなのか、 それがわからない。 もし、現実世界には存在し得ないものなのであれば、 自分の内面に架空の世界として 作り上げるべきなのかもしれない。 「昼寝ネコの雑記帳」(クロスロード刊)より転載
by hirune-neko
| 2011-05-05 01:38
| 心の中のできごと
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Comments(2)
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by
romarin
at 2011-05-05 05:56
x
なんだかユートピーの世界ですね。
>もし、現実世界には存在し得ないものなのであれば、 自分の内面に架空の世界として 作り上げるべきなのかもしれない。 なるほど・・・ 自分で思っているとある程度そのようになっていく気がしないではないですが私の錯覚かしら。 なんとなく年をとるにつれて物事を自然に見られるようになりました。周りもそれに反応するような気がします。
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Commented
by
hirune-neko at 2011-05-05 15:24
romarinさん
そうですね。 類は友を呼ぶでしょうし 自分に合うか合わないかが はっきり判別できる年代になると そんなに誰とでも付き合うことはしないでしょうし。 それと、気の合う話し相手なんて 本当に一人いれば十分で 二人いたらそれは贅沢な話しで 何人もいたら安心な人生ですよね。
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・1951年
小さいころ、雨ざらしで目ヤニだらけの捨てネコを拾ってきては、親から小言をいわれる。小学校低学年の音楽と図工は通信簿が「2」。中学からバスケを始めるも、高校2年で部活を止め、ジャズ喫茶通いが日課となる。授業が退屈でがまんできず、短編小説を書いては授業中のクラスで強制的に回覧させ、同級生の晩学を妨げることしばしば。早く卒業してほしいと、とくに物理の先生が嘆いていたようだ。ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーンに心酔。受験勉強をすっかり怠り、頭の中は浸水状態。 ・1969年 中央大学経済学部入学 まぐれで合格するも、東大安田闘争・70年安保闘争などの影響で神田界隈はマヒ状態。連日機動隊がやってきて大学はロックアウト・封鎖の繰り返し。すっかり希望を失い、大いなる時間の浪費が始まる。記憶に残っているのは、ジャズを聴いたこと、大学ノートに何やら書きなぐったこと、ぼーっと考えごとをすること。数限りなく、雑多なアルバイトをやったこと。一応は無難にこなした・・・はずだ。いろいろ本を買いあさったが「積ん読状態」で、ただ、アルベール・カミュの作品には衝撃を受ける。それと、寮生活だったので、嫌いだった納豆を食べられるようになったのは、収穫だった。 ・1974年 同大学卒業 1年留年し、5年かけてなんとか卒業。理由は単位を落としたからだが、結局5年間の学生生活で授業に出席したのは、おそらく数十日ではなかったろうか。毎回レポート試験で単位をいただいたが、ほとんどは寮生仲間に「餃子ライス」を報酬に、作成を代行してもらった。今さら卒業証書を返還せよといわれても、もう時効だろう。白門同窓生の恥部であることは、重々自覚している。 ・2006年 現在に至る プロポーズしたら1週間待ってくれという。そんなに待てないといったら、翌日ハート型のケーキを焼いて待っていてくれた。世の中には奇特な女性がいるものだ。おまけに4人も子どもを産み育ててくれて・・・育児放棄の夫に寛大な女性で・・・おまけに子どもたちは・・・三人の息子と息子のような娘が一人なのだが・・・父親を反面教師として、なんとか実社会に順応している。大したものだ。わが家には、「親の七光り」など存在せず、「子の七光り」で恩恵をいただいているようなものだ。 ・2010年 宇宙の旅 人生も、それなりに辛抱して生きていれば、悪いことばかりではないなと思っている。2010年には、どこで何をしていることやら。宇宙のチリになっているのか、地中に埋もれているのか、はたまた相変わらず時間を見つけては昼寝三昧なのか、こればかりは全く予測がつかない。 ・現在 このブログを始めた頃、2010年なんてずっと未来の存在だった。でも、気がついてみたら2010年はすでに過去のできごとになってしまった。2013年になり、もうじき2014年になろうとしているこの時期に、改めてブログに書き残された何編もの雑文が、自分の心の軌跡という遺産になっていることを感じている。6年前に「昼寝ネコの雑記帳」という単行本を出版した。最近は「続・昼寝ネコの雑記帳~創作短編集」を発刊しようと、密かに機会を窺っている。 お気に入りブログ
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