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昼寝ネコの雑記帳

笠井友子kasai tomokoのにゃんこストーリー第1作


Satie - Je te veux


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 先日来、美容室gigue(ジーグ)店長の鈴木さんの写真作品に、音楽と短文を融合させてサイトに掲載している。この美容室で店長の片腕として働いている笠井さんは、カトリ〜ヌ・笠井という名前で昼寝ネコのイラストを描いてくれている。

 今日、その笠井さんがこれまでに描いてくれたネコのイラストを題材に、即興短編作品を書き上げた。美容室gigue(ジーグ)サイトの、フォトストーリーの下に記念すべき「にゃんこストーリー」の第1号を掲載した。今日は、記念すべきデビューなので、このブログに転載させていただく。BGMには、エリック・サティの「ジュ・トゥ・ヴー」を選んでみた。なかなか渋いのではないだろうか。

 さてでは、感動と涙の即興作品を、そのまま以下にご紹介させていただく。

【笠井友子kasai tomokoのにゃんこストーリー】
 「誕生日の内緒の告白」
笠井友子kasai tomokoのにゃんこストーリー第1作_c0115242_00194496.jpg
 あれは何年前のことだっただろうか。

 私の3,000歳の誕生日を、ささやかに祝ったときのことだった。子ネズミのジョセフィーヌが、ニコニコと笑顔を見せて、私の耳許によじ登ってきた。何か嬉しいことでもあったのだろうと、そう思った。
 ジョセフィーヌの言葉を耳にして、私は思わず訊き返してしまった。一瞬の間があったが、ジョセフィーヌは今度ははっきりとした口調で言った。
 「あのね、わたし、おじさんのお嫁さんになってあげるね」
 ちょうど記念撮影の瞬間だったので、私の笑うに笑えない、なんと答えていいか分からない、すっかり困惑した表情がそのまま写真として残ってしまった。
 表情が凍り付いてしまった私は、しばしジョセフィーヌと見つめ合うことになってしまった。
 「おじさん、照れなくたっていいのよ。顔が赤くなって可愛い・・・」

 5年ほど前から、ここ川崎の街には外国からの貨物船に紛れ込んで、日本に不法入国するネコが増え始めていた。ネコにはビザの規定も検疫もなく、コンテナの隙間に隠れて容易に入り込むことができた。外国ネコたちは気性が荒く、あっという間に和ネコの領分を荒らし始めた。
 そんなある日、ジョセフィーヌの家族は民家園の木陰でピクニックを楽しんでいたのだが、数匹の不法入国のネコの襲撃を受けた。不意を衝かれたため、ジョセフィーヌの父も母も子ども達をかばいながら、あっという間に、かみ殺されてしまった。逃げ惑う子ネズミたちも、凶暴なネコたちに追いかけられた。

 その日はちょうど、民家園の天井裏で打ち合わせがあったため、私は昼から民家園に出かけていた。かん高く緊張した子ネズミの鳴き声と、耳馴れないネコのうなり声を耳にして、私たちは何事かと思い急いで外に出た。3匹の凶暴なネコたちは、それぞれ口に子ネズミをくわえていたが、駆け寄る私たちの姿を目にして、素早く逃げ去ってしまった。ネズミといえど、かみ殺された姿には痛々しさを感じた。
 その時、か細い子ネズミの怯えた声が聞こえた。草むらの中からだった。

 天涯孤独となってしまった、その幼い子ネズミを私は引き取ることにした。目の前で、大切な両親と兄弟が悲惨な目に遭った光景は、この子の目と心に焼き付いているに違いない。成長して、独り立ちできるまで守り育ててやろうと思ったのである。その日のうちに、私はジョセフィーヌと命名した。
 おそらく、ジョセフィーヌは何があったのかを理解できなかったようで、次第に私になつき、無邪気に育って行った。街中のネコたちは、子ネズミを育てる私を奇人か変人だと思ったに違いない。ネコ社会も人間社会同様で、表層だけで物事を判断してしまう。まあ、仕方のないことではある。

 その後、ジョセフィーヌは明るく元気に成長した。ときどき見かけるネズミたちとも交わるようになった。本来のネズミの生活に戻ったようで、安心していた。霊界から見守っている、ジョセフィーヌの両親も、安堵したのではないだろうか。
 そんなある日、ジョセフィーヌが帰ってきた。いつもとは様子が違う。何か困ったことでもあったのだろうか。ジョセフィーヌは視線を落としたまま、真っ直ぐ私の所にやってきた。
 「どうしたの?何かあったの?」
 何も答えないジョセフィーヌの身体が震え出し、大粒の涙を流しながら、何度も言葉に詰まって言った。
 「おじさん、ごめんなさい・・・わたし、約束を破ってしまったの」
 さて、何か約束をしていただろうか。他のネズミやネコのエサを横取りしてはいけないとか?暗くなる前には帰ってきなさいとか?

 途切れ途切れに、涙ながらに語ったジョセフィーヌの言葉に、私は思わずもらい泣きをしてしまった。遊び仲間でミッキー・マウスによく似た利発なネズミのことを好きになってしまったらしい。おじさんのお嫁さんになってあげる、と約束したのに・・・さすがに今ではネコとネズミの違いを理解したこともあって・・・そのミッキー・マウスくんと一緒に暮らしたいという。私は言った。
 「ジョセフィーヌ、それは正しい選択なんだよ。お前が誰のお嫁さんになっても、おじさんはすっとお前のことを大切に考えているからね。霊界のお父さん、お母さんと一緒におじさんは、ずっとお前を見守っているからね」
 私の言葉を聞き終わったジョセフィーヌは、いきなり私に抱きついてきた。そして心のこもったキスをしてくれた。ネズミとのキスは、さすがに生まれて初めてだった。これが正真正銘本当の「チュウ」なのだろう。

 種は異なるものの、小さな命を見捨てずに守り通し、自立を見届けられて良かったと思う。私の心の中に、最も大切な要素だと思っている使命感と達成感を残して行ってくれたジョセフィーヌには、私の方が感謝の気持ちを抱いている。霊界で安堵の気持ちに包まれているご両親の姿が、目に浮かぶようだ。


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by hirune-neko | 2017-06-25 00:32 | 創作への道 | Comments(0)
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妄想から始まり、脳内人格を与えられた不思議な存在

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昼寝ネコのプロフィール
・1951年
 小さいころ、雨ざらしで目ヤニだらけの捨てネコを拾ってきては、親から小言をいわれる。小学校低学年の音楽と図工は通信簿が「2」。中学からバスケを始めるも、高校2年で部活を止め、ジャズ喫茶通いが日課となる。授業が退屈でがまんできず、短編小説を書いては授業中のクラスで強制的に回覧させ、同級生の晩学を妨げることしばしば。早く卒業してほしいと、とくに物理の先生が嘆いていたようだ。ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーンに心酔。受験勉強をすっかり怠り、頭の中は浸水状態。

・1969年 
 中央大学経済学部入学
 まぐれで合格するも、東大安田闘争・70年安保闘争などの影響で神田界隈はマヒ状態。連日機動隊がやってきて大学はロックアウト・封鎖の繰り返し。すっかり希望を失い、大いなる時間の浪費が始まる。記憶に残っているのは、ジャズを聴いたこと、大学ノートに何やら書きなぐったこと、ぼーっと考えごとをすること。数限りなく、雑多なアルバイトをやったこと。一応は無難にこなした・・・はずだ。いろいろ本を買いあさったが「積ん読状態」で、ただ、アルベール・カミュの作品には衝撃を受ける。それと、寮生活だったので、嫌いだった納豆を食べられるようになったのは、収穫だった。

・1974年 
 同大学卒業
 1年留年し、5年かけてなんとか卒業。理由は単位を落としたからだが、結局5年間の学生生活で授業に出席したのは、おそらく数十日ではなかったろうか。毎回レポート試験で単位をいただいたが、ほとんどは寮生仲間に「餃子ライス」を報酬に、作成を代行してもらった。今さら卒業証書を返還せよといわれても、もう時効だろう。白門同窓生の恥部であることは、重々自覚している。
     
・2006年 
 現在に至る
 プロポーズしたら1週間待ってくれという。そんなに待てないといったら、翌日ハート型のケーキを焼いて待っていてくれた。世の中には奇特な女性がいるものだ。おまけに4人も子どもを産み育ててくれて・・・育児放棄の夫に寛大な女性で・・・おまけに子どもたちは・・・三人の息子と息子のような娘が一人なのだが・・・父親を反面教師として、なんとか実社会に順応している。大したものだ。わが家には、「親の七光り」など存在せず、「子の七光り」で恩恵をいただいているようなものだ。

・2010年 宇宙の旅
 人生も、それなりに辛抱して生きていれば、悪いことばかりではないなと思っている。2010年には、どこで何をしていることやら。宇宙のチリになっているのか、地中に埋もれているのか、はたまた相変わらず時間を見つけては昼寝三昧なのか、こればかりは全く予測がつかない。

・現在
 このブログを始めた頃、2010年なんてずっと未来の存在だった。でも、気がついてみたら2010年はすでに過去のできごとになってしまった。2013年になり、もうじき2014年になろうとしているこの時期に、改めてブログに書き残された何編もの雑文が、自分の心の軌跡という遺産になっていることを感じている。6年前に「昼寝ネコの雑記帳」という単行本を出版した。最近は「続・昼寝ネコの雑記帳~創作短編集」を発刊しようと、密かに機会を窺っている。
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