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昼寝ネコの雑記帳

クリスマス・ローズの墓


Nancy Wilson - The Christmas Waltz


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クリスマス・ローズの墓

年齢不詳とはいうけど、80歳は超えていたと思うよ。
ときどき東部アクセントが出ることがあったから、
町のみんなは、何か事情があってこの中西部に
逃れてきたんだろうって、もっぱらの噂だったよ。

通りで子どもたちが大声で遊んでいると、
彼女は、うなり声をあげるドーベルマンを連れてって
追っ払ったもんだから、みんな怖がってたっけ。
募金や寄付のお願いに行ったって門前払いだし、
教会のチャリティーイベントだって
参加したのを見たことないしね。
いつも喪服みたいに黒い洋服ばかり着て、
道ですれ違ったって、ハローのひと言もないし、
誰も近づく奴なんていなかったよ。

今年の寒波は例年になく酷かったから、
さすがの彼女も肺炎には勝てなかったみたいだね。
葬式だって、ボストンに住んでるっていう
息子さん家族だけだったそうだよ。参列したのがね。

ところで、この町に、「クリスマス・ローズ」って
みんなから親しまれている人がいるんだよ。
毎年、クリスマスや感謝祭には何カ所もの孤児院に
たくさんのプレゼントを届けてくれる人がね。
それだけじゃないんだ。あるとき総合病院に
重い病気の子が入院して、最新式の特殊な医療器械がないと
死ぬのを待つしかないっていうんだよ。とっても高額で、
町のみんなが必死に寄付を呼びかけたんだけど、
何十万ドルもする器械じゃあね。

子どもの症状は悪くなる一方だし、親は悲嘆にくれるし
町中がすっかり暗くなってしまったんだよ。
でもある日、新聞の記事を見てみんなびっくりさ。
病院にその器械が届いて、しかも誰かが寄附したっていうんだ。
問い合わせても「クリスマス・ローズ」という名の女性から
小切手が送られて来て、すぐにその器械を病院に届けるよう
依頼があったけど、それ以上のことは分からないってさ。

話しは戻るけどね、あの偏屈ばあさんの葬式のあと、
息子さんが弁護士に依頼しておっかさんの銀行口座を
調べたそうなんだよ。
いろいろ調べたら、「クリスマス・ローズ」っていう人が
あちこち寄付した時期と小切手の支払金額や支払先が
重なるらしいんだ。で、決定的だったのが
病院に寄付した高額な医療器械さ。
支払先がそのメーカーだって特定できてね、
それで謎の「クリスマス・ローズ」が実は
みんなから嫌われていた、あの偏屈ばあさんだと
いうことがはっきりしたというわけさ。
おまけに、「クリスマス・ローズ」っていうから
てっきりバラの花かと思ってたんだけど
違うんだってね。あのばあさんの庭に
たくさん咲いていたのが「クリスマス・ローズ」
なんだってさ。なるほど、だよね。

でも、いいことをしてんだから、「私が寄付したんですよ」って、
自慢したっていいようなもんだと思うだろう?
生まれも育ちもボストンの名門らしいんだけど、
何があって中西部のこんな町に住むようになったか知らないが、
野良ネコのおいらにゃあ金持ち人間の考えてることが、
ちっとも理解できないよ。

でもね、今じゃ彼女のお墓には、花が絶えないそうだよ。
クリスマス・ローズの花束がね。




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by hirune-neko | 2013-08-26 19:42 | Comments(0)
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妄想から始まり、脳内人格を与えられた不思議な存在

by hirune-neko
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昼寝ネコのプロフィール
・1951年
 小さいころ、雨ざらしで目ヤニだらけの捨てネコを拾ってきては、親から小言をいわれる。小学校低学年の音楽と図工は通信簿が「2」。中学からバスケを始めるも、高校2年で部活を止め、ジャズ喫茶通いが日課となる。授業が退屈でがまんできず、短編小説を書いては授業中のクラスで強制的に回覧させ、同級生の晩学を妨げることしばしば。早く卒業してほしいと、とくに物理の先生が嘆いていたようだ。ビル・エバンス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーンに心酔。受験勉強をすっかり怠り、頭の中は浸水状態。

・1969年 
 中央大学経済学部入学
 まぐれで合格するも、東大安田闘争・70年安保闘争などの影響で神田界隈はマヒ状態。連日機動隊がやってきて大学はロックアウト・封鎖の繰り返し。すっかり希望を失い、大いなる時間の浪費が始まる。記憶に残っているのは、ジャズを聴いたこと、大学ノートに何やら書きなぐったこと、ぼーっと考えごとをすること。数限りなく、雑多なアルバイトをやったこと。一応は無難にこなした・・・はずだ。いろいろ本を買いあさったが「積ん読状態」で、ただ、アルベール・カミュの作品には衝撃を受ける。それと、寮生活だったので、嫌いだった納豆を食べられるようになったのは、収穫だった。

・1974年 
 同大学卒業
 1年留年し、5年かけてなんとか卒業。理由は単位を落としたからだが、結局5年間の学生生活で授業に出席したのは、おそらく数十日ではなかったろうか。毎回レポート試験で単位をいただいたが、ほとんどは寮生仲間に「餃子ライス」を報酬に、作成を代行してもらった。今さら卒業証書を返還せよといわれても、もう時効だろう。白門同窓生の恥部であることは、重々自覚している。
     
・2006年 
 現在に至る
 プロポーズしたら1週間待ってくれという。そんなに待てないといったら、翌日ハート型のケーキを焼いて待っていてくれた。世の中には奇特な女性がいるものだ。おまけに4人も子どもを産み育ててくれて・・・育児放棄の夫に寛大な女性で・・・おまけに子どもたちは・・・三人の息子と息子のような娘が一人なのだが・・・父親を反面教師として、なんとか実社会に順応している。大したものだ。わが家には、「親の七光り」など存在せず、「子の七光り」で恩恵をいただいているようなものだ。

・2010年 宇宙の旅
 人生も、それなりに辛抱して生きていれば、悪いことばかりではないなと思っている。2010年には、どこで何をしていることやら。宇宙のチリになっているのか、地中に埋もれているのか、はたまた相変わらず時間を見つけては昼寝三昧なのか、こればかりは全く予測がつかない。

・現在
 このブログを始めた頃、2010年なんてずっと未来の存在だった。でも、気がついてみたら2010年はすでに過去のできごとになってしまった。2013年になり、もうじき2014年になろうとしているこの時期に、改めてブログに書き残された何編もの雑文が、自分の心の軌跡という遺産になっていることを感じている。6年前に「昼寝ネコの雑記帳」という単行本を出版した。最近は「続・昼寝ネコの雑記帳~創作短編集」を発刊しようと、密かに機会を窺っている。
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